みやビズ

2018年7月16日(月)
テクノリポート~県工業技術センター・県食品開発センターの取り組み~

畜産王国みやざきを裏側から支える新技術の開発に向けて

2017/12/12
 「ジュー」と小気味よい音を立てて鉄板の上で焼かれる宮崎牛、フライパンの上で上品にソテーされるブランド豚、豪快に炭火で炙(あぶ)られる地鶏。畜産王国である本県で生産されるさまざまな食肉に、今日も多くの人々が舌鼓を打つ。

県工業技術センター資源環境部


 「ジュー」と小気味よい音を立てて鉄板の上で焼かれる宮崎牛、フライパンの上で上品にソテーされるブランド豚、豪快に炭火で炙(あぶ)られる地鶏。畜産王国である本県で生産されるさまざまな食肉に、今日も多くの人々が舌鼓を打つ。今回のテクノリポートでは食肉生産と切っても切り離せない、しかし消費者に意識される機会が少ない「家畜の骨」に着目。その新たな有効利用の方法を探索する宮崎県工業技術センター(野間純利所長、以下、センター)の研究開発について紹介したい。

【家畜の骨の現状】


家畜の骨(高温で焼成した骨灰の状態)

家畜の骨(高温で焼成した骨灰の状態)

 スーパーの精肉売り場に整然と並ぶパック詰めされた肉。いずれもきれいに処理が施されており、もともとが一頭の牛や豚、一羽の鶏であったことを感じさせる要素はほとんどない。生き物がまるごと肉に変わっているような錯覚すら覚えさせる日常の風景である。しかし現実的な数字を示すと、この場所に並ぶ肉は家畜の体重のおよそ50%分にすぎない。目に触れることのない残る半分、畜産副産物と呼ばれる骨や血液などの部位は、化製事業者等の手によって処理が行われ、有効利用が図られている。骨は家畜の体重の約10%を占め、エキスの抽出などに利用された後、最終的には飼肥料に加工されている。

【骨を化学的に見ると】


 骨はカルシウムの塊である、との認識も少なからずあると思われる。しかし、無機物として見た骨はカルシウムとリン酸、水酸基が規則的に配列した「ヒドロキシアパタイト」(以下、HAp)と呼ばれる結晶性の物質である。難解な名称の物質であるが、「芸能人は歯が命」というフレーズで一昔前に宣伝されていた歯磨き剤の製品名に冠す「アパ」が、この物質を指していることを知れば、ある年代以上の方は親近感を覚えるであろうか。HApは優れたイオン交換能力、タンパク質の特異的な吸着特性、生体適合性などを有する「機能性素材」であり、その応用可能性は多岐にわたる。化学合成された純粋なHApを比較対象として焼成した骨の結晶構造を調べてみると、両者はピタリと一致する。すなわち骨は生き物が作り出した天然の機能性素材であり、より付加価値の高い有効利用の可能性を秘めているのである。

【骨の微粒子化に挑む】


(写真2)骨のナノ微粒子の走査電子顕微鏡像(スケールバーの1目盛りは50ナノメートル)

(写真2)骨のナノ微粒子の走査電子顕微鏡像(スケールバーの1目盛りは50ナノメートル)

 これまでのテクノリポートでも紹介したとおり、センターではナノ磁性粒子、はんだ微粒子(メタル乳化)など、微粒子を調製する技術を長年蓄積しており、物体を極めて小さくすることで新しい用途、価値を生み出してきた。骨の新しい利用方法の探索に当たっても、微粒子化を柱に研究を行い、粒子サイズの目標はナノオーダーに設定した。

 さて、ここで問題となるのが、機能性素材であるHApの結晶構造を壊すことなく骨を微粒子化しなければならないことである。手に握ったハンマーを適当な力で骨に振り下ろせば、骨を小さくすることは可能である。しかし、得られる粉の大きさはナノには程遠い。

 そこで着目したのが「ビーズミル技術」。1ミリにも満たないセラミックス製のビーズ(球)を、物体に衝突させて粉砕する技術である。無数の小さなビーズが極小のハンマーとなって物体を砕き、微粒子が生み出される。イメージは簡単であるものの、ハンマーが小さくなるほど物を砕くことは困難となる。そのとおりに、実験は多くの失敗を重ねた訳であるが、最終的にはHApの結晶構造を保った状態で、約30ナノメートルという超極小の微粒子を作製することに成功した(写真2)。

(写真3)粉砕前後の骨(左:粉砕前、右:粉砕後)

(写真3)粉砕前後の骨(左:粉砕前、右:粉砕後)

 写真3は粉砕前後の骨を試験管に入れて撮影したものである。この写真を見てナノサイズの粉体の持つ不思議さに気付いただろうか。実はこの両者、見た目の量はこれほど違うにも関わらず、どちらも同じ重さの骨なのである。

【今後の展望】


 機能性素材としての利用可能性を秘めた家畜の骨を研究対象として、極限レベルの粉砕処理を行い、世界最小級の骨の微粒子を作り出すことに成功した。しかし、骨の新しい利用方法を探索する本研究においては、ようやくスタート地点に立てたにすぎない。現在、この微粒子が有する広い表面積を利用して、ゴムやプラスチックなどの異種材料との複合化を図り、新素材の開発を目指して研究を行っている。また、触媒や吸着剤、センサー材料などアイデア次第で応用の範囲は無限に広がってゆくものと考えられる。

 畜産王国みやざきは生き物を愛し、その贈り物を余すことなく活用する人々の努力によって支えられている。この研究もその一助となれるよう、新たな活用の輪を広げる取り組みを今後も続けてゆく。

アクセスランキング

ピックアップ