みやビズ

2018年12月15日(土)
テクノリポート~県工業技術センター・県食品開発センターの取り組み~

スマホアプリによる牛の分娩対策

2017/10/10
20171006-1techhno.jpg 本県の胎子・出生子牛の死廃事故頭数は年間3569頭にも上り(2013年農林水産省調べ)、年間の子牛出荷頭数の5%以上が死廃している計算となる。また、「日高らの報告」(編注)によれば、本県における1988~97年の調査で、胎子・子牛の死亡率は地域によって2.6~4.3%の範囲にあり、死産のうち、農家の立ち合いがなかった例が47%に上ったとも報告されており、早急な対応が求められている。

県畜産試験場家畜バイテク部


1、畜産(繁殖牛)農家の現状


 本県の胎子・出生子牛の死廃事故頭数は年間3569頭にも上り(2013年農林水産省調べ)、年間の子牛出荷頭数の5%以上が死廃している計算となる。また、「日高らの報告」(編注)によれば、本県における1988~97年の調査で、胎子・子牛の死亡率は地域によって2.6~4.3%の範囲にあり、死産のうち、農家の立ち合いがなかった例が47%に上ったとも報告されており、早急な対応が求められている。

 一方で、繁殖農家にとって分娩(ぶんべん)事故は、その期間の経費と子牛を同時に失うこととなり、経営的な損失が非常に大きい。このため、繁殖農家は昼夜を問わず継続的な分娩監視を行っており、分娩監視業務の効率化が大きな課題となっている。

2、近年のICT技術の状況


 そのような中、近年急速にスマートフォンが普及している。総務省の通信利用動向調査ではスマートフォンの世帯保有率は10年が9.7%であったのに、15年には72.0%と飛躍的な伸びを見せている。また、近年注目を集めている技術が「画像認識技術」である。監視カメラなどの映像からモノや人の判別、行動の解析などを行う技術で、自動運転や防犯等の分野で研究が進められている。

3、県畜産試験場の共同研究


 当試験場では、前述した問題を解決するため、コムテック(高原町)、富士通九州システムズ(福岡市)と共同で、画像認識技術を活用した牛の分娩兆候検出システムと、スマホなどの携帯端末に分娩兆候を通知するシステムについて研究を開始した。

 システムの構想としては、分娩予定牛がいる牛舎に監視カメラを設置、クラウドサーバーで行動を解析し、分娩兆候を検知した場合、飼養者に通知するシステムとした。(図1)

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図1


 システムの完成には画像認識技術で分娩兆候を検出する必要があるため、まず、分娩兆候検出のアルゴリズムについて検討を行った。

 牛は分娩前に平常時より横になる時間が減り、立っている時間が長くなる。そして、そわそわと牛舎内を歩き回り、行動量が増加することが一般的に知られている。そのような知見を生かし、監視カメラから得られた画像データから行動量の増加を判別できないか調査を行った。

 調査の結果、数秒ごとに撮影された画像から牛の移動距離を計測することで行動量(移動頻度)を測定することが可能であることが分かった。さらに、過去数日間の行動量と比較することにより、分娩前特有の行動量の増加を検知することが可能であることが明らかとなった。

 図2、3に解析結果の一例を挙げる。図2が分娩した牛のグラフ、図3が分娩していない牛のグラフとなっている。分娩した時間は赤線で示している。

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図2


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図3


 このグラフを見ると分娩していない牛の移動頻度(2時間あたり)が200回に満たないのに対し、分娩した牛は最大392回にも達し、急激に行動量が増加しているのが分かる。

 また、昨年度までの調査の結果、分娩前3日間の移動頻度平均値と当日の移動頻度を比較することにより、より精度の高い行動解析が可能であることが分かってきた。調査では16頭中11頭、およそ7割の牛で分娩前の行動量の増加を確認することができ、実用性が高いということが実証された。

4、実用化に向けた今後の取り組み


 システムの実用化にはさらなる精度向上、分かりやすい通知方法が求められる。そのため、現在、より精度の高い行動解析手法、アラーム通知の方法について検討を進めている。このシステムが普及すれば農家の分娩監視業務は効率化され、作業時間および事故率の低減、生産性・収益性の向上が期待される。システムの早期製品化に向け、今後も研究を進めていく計画だ。

(技師 杉野文章)

(編注)日高眞和ら.1999.宮崎県の黒毛和種牛胎児および出生子牛における死廃事故の疫学調査.家畜診療.46:313-319.

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