脳活動を見える化する技術が介護福祉を変革する 県工業技術センター機械電子部
人は、言葉を使って情報を伝達する。ところが、言葉に頼ることができない場面が多い介護福祉・リハビリテーションの分野では、何か別の伝達手段を探さなくてはならない。

写真1 プローブヘッドギア(左)と脳活動イメージング装置本体(右)
一方、介護福祉・リハビリテーションや健康機器分野は、今後訪れる高齢化社会を背景に、本県の主要産業に成長すると期待されている。そこで、県工業技術センターは、他県や海外との差別化を図るため、「脳活動イメージング装置」を活用し、脳科学の基礎研究から介護福祉などの産業化へつなげる戦略を立てた。
まず、「脳活動イメージング装置」がどのような機能を持つのか述べたい。
この装置の特徴は、「近赤外光(きんせきがいこう)」という特殊な光を使用していることにある。テレビのリモコンや光ファイバーなどの光通信、あるいは、医療分野の血中酸素量モニターなどに利用され、人体に影響のない安全な光である。
この特殊な光で、なぜ、脳内の血流変化を調べることができるのだろうか?

図1 近赤外光が脳断面に届くイメージ
「脳活動イメージング装置」は、近赤外光のこのような性質を利用して、頭部に近赤外光を照射するプローブと脳から出てきた光を受光するプローブ(光センサー)を複数つないだヘッドギア、それに、プローブから得られる光情報をカラーで表示し映像にするコンピュータ部を組み合わせた装置として開発された。
光の吸収度が多ければ「血流量が増加」していることを示し、脳が活性化していることがわかる。プローブは、頭の額、頭頂部、側頭部、後頭部など、測定したい場所に取り付けることが可能である。

図2 脳の活動状況(前頭野)

図3 リハビリ機器の使用効果 (左)リハビリなし、(右)リハビリ中
「脳活動イメージング装置」は、食品分野においても利活用が期待されている。
例えば、味、臭いなどの食物のおいしさに対する感覚を、脳の活動から客観的に解析することが検討されている。これは、「おいしい」、「まずい」、「甘い」、「辛い」などの味覚表現の使い分けが、厳密には個人によって異なるためであり、曖昧な言語を共通する脳内血流変化に代替する研究も進められている。
本装置は、脳内血流変化という意図的に変えることのできない刺激応答情報で官能評価を行うことが可能と言われ、食品の商品開発や市場リサーチなど、将来、有力な評価手段になると期待されている。
以上のように、県工業技術センターにおける脳活動を「見える化」する技術と研究は、今後あらゆる方面のニーズに貢献できると考えられる。特に、本装置を導入している公設試は宮崎県工業技術センターだけであり、全国に先駆けた取り組みとしても注目されている。
現在、「脳活動イメージング装置」は、県内の各機関に開放しており、すでに、企業・大学などでの利用が活発である。介護福祉・リハビリ関連の製品開発、官能試験のグローバルな評価など、時代を変革するオリジナル技術へと発展するきっかけとなることを期待している。
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