みやビズ

2018年7月20日(金)
西日本新聞経済電子版(qBiz)

「バイトない問題」も解決したい 古民家×学生寮「ありふれたもの同士」の可能性 福岡・糸島市

2017/12/06
1871年に建てられた民家で

古民家を学生寮としてオープンさせた大堂良太さん

古民家を学生寮としてオープンさせた大堂良太さん

 明るい茶色の塀に囲まれた民家を目指した。福岡県糸島市にあるこの家は、周囲の民家と田んぼ、そして裏山といった風景に完全に溶け込み、カーナビに住所を入力しても、うっかり通り過ぎてしまうほどだ。

 明治時代始めの1871年に建てられたこの古民家は今、九州大の学生向けの寮になっている。たたきの土間に階段たんす、かまどの跡もある昔ながらの住居。ここが学生寮だと言われても、多くの人はピンとこないだろう。

 でもこの空間は、想像以上に可能性にあふれている。

 床面積約500平方メートルの木造家屋には、ラウンジやリビングを含めて11部屋ある。定員8人の募集を始めたのは8月。すでに7人が暮らし、最後の入寮者も決まりつつある。ノルウェーからの学生もいる。

 「熱風寮・糸」と名付けられたこの空間を運営するのは「合同会社よかごつ」 (通称・九州熱風法人よかごつ、糸島市)。今年4月に設立されたばかりだ。代表を務める大堂良太さん(35)と初めて出会ったのはその1カ月前の3月、東京で開かれたコワーキングスペースの内覧会でのことだった。

 九州大大学院を卒業後、大手商社の丸紅に入社し、約10年間勤めた後、教育に携わるNPO法人に移った大堂さん。「実はもうすぐ福岡に戻って、古民家で学生寮をやるんです」という言葉に、正直に言うと最初は「??」だった。ビジネスになるのだろうか、と。

 「熱風寮・糸」はただの寮ではなく、地域を盛り上げる機能を備えた学生寮だった。大堂さんが着目したのは、家主が維持管理に苦心している古民家。学生が維持管理を担いながら、地域に溶け込み生活できる、うってつけの場所と考えたという。市街化調整区域だったため用途変更が必要だったが、地域再生を掲げることで県の開発許可を取り付けた。

 家主にとって、家賃収入はもちろん、人が住むことによって掃除や風通しなど維持管理にかかる手間も省ける。寮の家賃は九大周辺の1Kアパートの相場よりも低い月額2万5000円程度からで、敷金や礼金はゼロ。学生の経済負担も軽い。

潜在需要は「決して小さくはない」

入り口には土間があり、奥の空間は図書室に生まれ変わる予定だ

入り口には土間があり、奥の空間は図書室に生まれ変わる予定だ

 古民家は各地でカフェやゲストハウスなどに活用される事例が増えている。ただ客商売の場合、施設管理やサービスのための人件費がかさむのが難点。寮として「住まい」になれば、住人自らが住居を管理するためその負担は軽くなり、新たにビジネスとしての可能性が生まれる。

 単体で考えると、事業としての収益は決して大きくない。だが、この「古民家×学生寮」の潜在需要は「決して小さくない」と大堂さん。来年3月には糸島市内に2軒目がオープン予定で、そのほかの地域からも引き合いがあるという。背景にあるのは増加する空き家と、九大周辺の学生向け物件不足という二つの問題だ。

 大堂さんが寮にこだわるのは、自らの体験からだ。幼いころに小児ぜんそくを患ったが、療養施設での生活で健康になった。九大では、今はなき男子学生寮「田島寮」で過ごし、大学院時代も別の寮で暮らした。生活のリズムを保ち、地域と関わりながら、仲間と暮らすことで得られるものの大きさを実感していたという。

 「糸」の地域活動はすでに始まっている。学生たちによる地元の子どもたち向けの学習教室を開催。行事への参加のほか、イベントなどで寮を住民に開放することも検討している。

 大堂さんは「九大生の『バイトない問題』も解決できれば」とも話す。学生の中には、糸島地区にアルバイト先が少なく、少し離れた福岡市西区の姪浜などに住むケースもあるという。一方で、糸島地区の保護者には、遠方の学習塾に子どもを通わせることへの不安がある。その声に、寮生たちが応えられるかもしれない――というわけだ。

 大堂さんはさらに、企業が学生の寮費を支援するなどの奨学金モデルも考えている。企業にとっては学生支援というCSR(企業の社会的責任)になるだけでなく、人材不足の中で学生とつながりをつくるきっかけにもなるという視点だ。

 古民家と学生寮、両方ともありふれた存在だ。それを組み合わせることで、これだけの新しい価値が芽を出している。イノベーションって、こういうことなのだろう。ただそのヒントに気付くのは、簡単ではない。

 寮ではまだまだ、土間の奥にある倉庫を図書館にしたり、ビワの木を植えたりと環境づくりが続く。

西日本新聞社

【関連記事】
「もう本社に帰りたくない」魅惑の福岡、ブラックホール説を徹底大解剖
「ギロッポン」より「マツロッポン」 今、福岡で一番熱い街・六本松 閑古鳥からV字回復
単身者の人気トップ!福岡市にある“ミラクル下北沢”の実力とは
福岡は大学より高校人脈? OBが明かす意外なNGワード
満足度は「97・3%」福岡市のごみ収集 カラスも眠る「夜」

アクセスランキング

ピックアップ