みやビズ

2018年5月23日(水)
西日本新聞経済電子版(qBiz)

たった5分!誰でも手軽にスマホ広告できる時代へ 米ベンチャーが開発、日本でもサービス開始

2017/07/14
■たった5分でバナー広告がつくれる新技術

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雪江 悟 Yukie Satoru

 博多港国際ターミナルにクルーズ船が着岸する。下船した中国人観光客が、福岡の天気予報を調べるためにスマートフォンの天気予報アプリを立ち上げる。すると、その天気予報アプリの画面の下にあるバナーに、福岡の百貨店に新しくできたデューティフリーショップの広告が入っている。バナーを開くと、中国語表記で中国人観光客に人気の商品の情報が、値段とともにさまざまに紹介されている―。(ノンフィクションライター・三宅玲子)

 中国の上海や天津、青島などから週に10便近いクルーズ船が着岸する博多港国際ターミナル。クルーズ船に乗って福岡を訪れる中国人観光客は、年間85万人といわれる(福岡市港湾空港局2016年統計)。中国人観光客に向けた商機を求める物販やサービス業等の企業にとって、「クルーズ船での中国人観光客」という絞り込んだターゲットに、高い精度でのリーチが可能なオンライン広告を打つことができたら、高い広告効果が期待できる。

 位置情報をもとにスマートフォンに広告を配信する「ジオターゲティング」という機能を使えば、このように場所を限定したターゲットに向かってオンラインで広告を配信することは可能だ。だが、実際には、こうしたネット上の広告は、ある程度の広告出稿量が見込まれる規模の企業が広告代理店に発注しないと出稿できない。しかも、入稿から配信まで少なくとも1週間程度の時間がかかる。

 それが、いきなり簡便に、スピーディーに出稿できるようになるという。

 素材さえそろっていれば、広告代理店や広告を出稿する企業の担当者が、手元のコンピューターを使って自分でバナー広告を作成して配信できるサービスが発表されたのだ。開発者は、アメリカ・サンディエゴのITモバイルベンチャー・チョークデジタルだ。

 このサービスを使えば、バナー広告の出稿は驚くほど早く簡単に、しかも小さな予算からの出稿が可能だという。

 たとえば、福岡市内のレストランチェーンが、ある日のスペシャルメニューのランチキャンペーンを天神地区のF1層(20~34歳)の女性に限定して配信する場合。レストランチェーンの広告担当者は、その日の午前11時から14時までの3時間、ターゲットを所在が天神地区に確認されるF1層の女性に絞るなど、訴求したいキャンペーンの条件をまず決める。同時に、バナーにビジュアルとして表示される画像データを用意する。

 スマホ広告配信プラットフォームのサイトを立ち上げ、情報(配信概要)→予算→ターゲット→バナーデザイン→ランディングページという五つのステップを進み、最後にGOボタンを押せば完了である。所要時間はたったの5分だ。

■レストランが簡単にバナー広告を出せたら

 開発のきっかけは、「チョーク」という社名に込められていた。

 チョークデジタル株式会社CEOの雪江悟氏はこう説明する。

 「町の小さなレストランが、お店の外にチョークで『本日のオススメメニュー』を書いた黒板を出してますよね。ああいう情報を、フェイスブックやインスタグラムにアップするのと同じような感覚で、気軽にちゃんと届けられるモバイルの広告があったら便利だろうと思ったんです」

 アメリカではレストランや美容院、個人の不動産業など、「スモールビジネス」の50%はオンラインメディアにバナー広告を出稿するチャンスがない―。これは、雪江氏等がチョークモバイルを創業した2013年にアメリカで調査した結果だ。

 ネットメディアで広告展開をするには、ある程度の予算規模が必要で、しかも広告代理店を通さなくてはならない…。それはアメリカも日本と同じ状況だったという。

 雪江氏を含む3人の創業メンバーは、広告予算がそれほど潤沢ではない中小企業や個人事業主なども、気軽にネットメディアに広告を出すことができるようになれば、将来、広告の形や意味が変わるだろうと考えた。

 「広告も情報の一つの形だと思うんです。それをもっと気軽に使えるようになると、人が情報を発信していくツールがもっと自由になるはずです」

 チョークデジタルのインド・ニューデリーとサンノゼ、サンディエゴの3拠点を結んだ技術者チームが、2年をかけて開発した。

■徹底したデータの「可視化」

 スマホ広告配信プラットフォームのもう一つの特徴は、見る人の数字を「可視化」した点だ。エリア内で過去24時間以内にとれたインプレッション(=表示回数)を示すことができる。このサービスすべての利用者に公表したのは世界初だという。

 「そもそもウェブ広告に詳しくないと、表示回数などよく分からない。初めての人でも、このサービスなら過去24時間にどれだけ広告が配信されたか数字で示すことができるので、その数字を参考に配信エリアを決めることができます」

 さらに、広告が見られている場所やクリックされた場所をリアルタイムで表示できる機能や、どのアプリにいくらで出稿するか瞬時に判断するアルゴリズム技術がある。

 こうしたデータを、サービスの利用者が直接確認することができるのも、これまでにないサービスだという。

 アメリカでは日本に先駆けて、2015年にこのサービスをローンチ(開始)している。アメリカでの事例をいくつか挙げてもらった。

 その一つは、ウォーレン・バフェットが保有する大手不動産会社・バークシャー・ハースウェイが、自社サイトにこのサービスを組み込んだケースだ。たとえば、ハースウェイ社と提携している中小の不動産代理店が、内覧会の告知などにこのサービスを活用する。週末のオープンハウスのイベントをその物件の周辺に配信したいという場合、わずか25ドル(約2850円)で出稿が可能だ。ターゲットとする商圏を細かく指定できて、自分で予算を決めて自分で配信できるのが、使い勝手のよさと無駄のない出稿プランにつながっている。バークシャー・ハースウェイ社のサイトが、規模の小さな不動産仲介業者がスマホ広告を配信するプラットフォーム機能を果たしているというわけだ。

 16年10月、チョークデジタルは東京都千代田区に東京法人を開設。スマホ広告配信プラットフォームサービスの日本展開を開始した。

 同社が日本の市場を目指した理由はどこにあるのか。

 「日本国内ではモバイル広告市場が8000億円規模と予想されています。さらに、日本はiモードがあったためにモバイル広告市場が世界一だった。つまり、スマホ前からモバイル広告の市場があったんです。現在は、モバイル広告市場といえばアメリカと中国ですが。モバイル広告の土壌ができている日本でも展開を考えました。今後、東京はアジアの中心に位置付けていきます」(雪江氏)

 チョークデジタルは、サービスをローンチするタイミングの2015年にベンチャーキャピタル等の投資を受け入れ約2億5千万円の増資をした。そしてこの2017年6月、追加増資を決定した。今回、出資によりチョークデジタルと業務提携を結んだのは、西日本新聞社だ(出資額非公表)。

 西日本新聞社のデジタル事業に特化した子会社・西日本新聞メディアラボが、チョークデジタルのプラットフォームを活用したモバイル広告配信事業サービスを始める。

■日本初、モバイル広告を売る新聞社

 デジタルプラットフォームを自社で取り扱うのは、日本の新聞社では初めてだ。西日本新聞社と提携をする狙いはどこにあるのか。

 「たとえばチラシを例に考えてみてください。スーパーマーケットが折り込みチラシで告知してきた週末の特売情報を、われわれのサービスを使えば、その店の商圏で、年齢層や性別を選択して、特売前日の夜や、当日の朝などにオンラインで配信することができます」(雪江氏)

 ほかにも、ジオターゲティング機能を生かして、たとえば大濠公園の花火大会の日に、花火大会に訪れている人だけを選別して広告を展開することができる。

 九州大学の合格発表に合わせて、場所を伊都キャンパスに絞り込んで年齢を学生とその保護者をターゲットに設定し、学生向けアパートやマンションの賃貸物件の広告を打つことも可能だ。

 店舗や商圏の周辺でクーポン広告を配信する、あるいは、イベント会場やコンサート会場など多くの人が集まる場所で特定の時間だけ広告を配信することができる。

 新聞社にとっては、このスマホ広告配信プラットフォームを自社商品として展開することによって、不動産、求人、流通など、従来は新聞を広告媒体として活用していた広告主に対し、新聞に加えてモバイルで新たな広告媒体を提供することができるというメリットがある。

 まずはBtoBによりプラットフォームの安定運用を目指す。

 出稿に際しては、二つの方法がある。

 一つは「代行」型だ。バナー広告の出稿を希望する企業や個人事業主は、窓口となる西日本新聞メディアラボに出稿を依頼する。西日本新聞メディアラボが広告主からターゲットをはじめとする諸条件を聞き取り、素材を預かって、五つのステップを作業する。

 もう一つは、このプラットフォームのシステムをクライアント企業が自社で運営できるような契約を結ぶ「自社運営」型だ。

 「代行」型は、比較的小さな商圏で低予算での出稿を希望する場合に適している。雪江氏によると、出稿によりある程度の効果が期待できる広告予算の目安は10万円~だ。レストランチェーンのように、店舗ごとに商圏を定めて展開する場合は「自社運営」型の利便性が高い。

 どちらの型も、当面はスマホからではなくパソコンから制作するサービスに限定して展開する予定だという。また、公序良俗に反する広告の出稿は受け付けないなどの審査基準を設けており、広告主は、前もって、この広告審査基準をクリアすることが出稿条件となる。

■「迷子犬」を探す広告が発信できたら…

 「将来はスマホで誰もが簡単にバナー広告を配信できるようにしたい」と雪江氏は言う。

 もし、スマホを使って個人がバナー広告を配信できるようになったら、どんな使い道があるだろう。

 「迷子犬はだいたい2キロ圏内で見つかると言います。このサービスを使えば、家からエリアを限定して、2キロ圏内で起動しているスマホに向かって告知としての広告を配信することができます。こういう使い方は、ペット社会ならではの潜在的な広告ニーズだと思います」(雪江氏)

 ジオターゲティングと情報発信を組み合わせた機能は、広告のみならず、報道にも生かせる可能性がある。

 「火事や水害などの災害時、刻一刻と変化する情報を、当該地の住民に配信することができれば、被害を最小限に防ぐお手伝いを新聞社ができる可能性が広がります」

 チョークデジタルのスマホ広告配信プラットフォームサービスと新聞の組み合わせが、将来に向けてどんな可能性を開いていくのか。従来の「広告」という狭い定義に収まらない新しい媒体価値が生まれることが期待される。

雪江 悟 Yukie Satoru
 1980年に上智大学を卒業後、ソニー株式会社に入社。87年衛星通信システム事業の立ち上げで渡米し、95年ソニー米国法人のマーケティングディレクターとして米国での携帯電話事業の立ち上げに参画。その後VPとして通信関係の新規事業戦略や投資事業に参画。2001年米国永住権取得を機に独立し、現在のFranklin Wireless, Inc.,Axesstel, Inc. 等を創業。12年に共同設立者の一人としてChalk Digital社を設立。

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