黒木建設(日向市)
工事現場の粘土を陶芸用に
道路工事現場から出る粘土は、取り除いて捨てるか、セメントに混ぜて別の現場で再利用するしかない。いずれにしても処理に費用が掛かる、いわば“厄介者”だった。それを「陶芸用の粘土として使えないか」との着想から、陶土「ひむか古代粘土」として発売したのが黒木建設(日向市)の黒木教明社長。この粘土の付加価値を高めようと、今では電子レンジでご飯が炊ける陶器製炊飯器「土器どき丼」も開発して製作、販売している。異業種への挑戦は決して楽ではなかったが、「宮崎の土で新しい陶芸文化を」という思いが取り組みを支えてきた。
粒子小さく焼き上がり滑らか

ひむか古代粘土で作られた「土器どき丼」やティーポット、好みのサイズが選べるカップ。使うほどにつやが出るのも特徴という
「ひむか古代粘土」は通山浜層から出た粘土そのものを指す。特徴は、もともと粒子が小さく、焼き上がりが滑らか。ただ、耐火度が低いため、釉薬(ゆうやく)を掛けずに焼く「焼き締め」という技法に向く一方、この土単独では大作は作りにくいという側面もある。このため宮崎から出た土という愛着を持って使い始めた陶芸家もいるが、それまで使ってきた土へのこだわりが強い陶芸家も当然多く、なかなか普及しなかったのも現実だった。
「うちの粘土は使いものにならん」と黒木社長が半ば諦めかけたとき、県の「みやざき工芸品商品力育成強化支援プロジェクト」のことを知り参加した。2010年のことだった。
「土器どき丼」誕生

「宮崎の土で作ったものを世に出して、皆さんに使っていただきたい」と話す黒木教明社長(左)と妻の美千代さん(中央)。社員の原田真由美さん(右)が商品を作っている
「電子レンジでご飯を温めるような器を作っては」というアドバイスから、「電子レンジで簡単にご飯が炊けないか」と考え方を一歩進めたのは、妻の美千代さん。器の形などを試行錯誤して試作品が完成し、県工業技術センターや佐賀県窯業技術センター(佐賀県有田町)などでの粘土成分分析や安全性試験を経て、ついに11年7月、「土器どき丼」(3150円)を世に送り出した。
「土器どき丼」は陶器製の二重ふた構造で、電子レンジで加熱すれば簡単に1合分を炊飯できる優れもの。遠赤外線効果でふっくらとしたご飯に仕上がるという。これからネットを通じた販売にも「力を入れていく」と意気込む。ほかにもティーポットやビアカップなど、使うほどに手触りの滑らかさが増す品をそろえた。異業種参入ならではの苦労も経験したが、黒木社長は「せっかく宮崎から出た土。その土で作ったものを世に出して皆さんに使っていただくことで、『宮崎にこんなにいい土があるんだよ』『宮崎にこんな新しい文化が育っているんだよ』ということを伝えていきたい」と話している。