みやビズ

2018年6月24日(日)
キーパーソン

福山黒酢(鹿児島市)研究開発室長兼任ビール事業責任者 竹下義隆さん

2017/07/24
“黒酢愛”も発酵中 大学院で好熱菌を研究し、食品会社では納豆菌、そして現在、黒酢醸造所で麹(こうじ)菌の研究開発を担当する発酵のプロフェッショナル。鹿児島県霧島市福山町では、江戸時代に中国や沖縄から伝わった黒酢の醸造が受け継がれる。2003年に新規参入した福山黒酢の開発責任者として、黒酢の新たな付加価値創生に力を入れる。

“黒酢愛”も発酵中


壺で発酵、熟成させる黒酢のとりこになっている竹下さん。伝統の醸造方法に最新のテクノロジーを加えることで、付加価値の高い商品づくりを目指す

壺で発酵、熟成させる黒酢のとりこになっている竹下さん。伝統の醸造方法に最新のテクノロジーを加えることで、付加価値の高い商品づくりを目指す

 大学院で好熱菌を研究し、食品会社では納豆菌、そして現在、黒酢醸造所で麹(こうじ)菌の研究開発を担当する発酵のプロフェッショナル。鹿児島県霧島市福山町では、江戸時代に中国や沖縄から伝わった黒酢の醸造が受け継がれる。2003年に新規参入した福山黒酢の開発責任者として、黒酢の新たな付加価値創生に力を入れる。

 宮崎市佐土原町出身。宮崎北高から関東の大学へ進学。その後、筑波大大学院バイオシステム研究科で45度以上の環境でも生育する好熱菌について研究。タンパク質は熱に弱いが、好熱菌のタンパク質は高い耐熱性を持つ。この性質を応用する技術を研究した。

 卒業後は迷うことなく、大学院のある茨城県に本社を置く大手発酵食品メーカーに就職した。主力商品は茨城特産の納豆。担当は納豆菌の研究で、希望通りの職種だった。しかし、実際の仕事は想像と違った。「大量生産の納豆は既に工程が出来上がっていて、研究するには面白みが欠けた」

 同社を6年で退職。本県にUターンし、06年から県産業支援財団へ3年契約で就職した。役職は県が進める食のプロジェクトを支援する知財活用エージェント。民間企業への技術移転や特許申請などを幅広く担当した。企業訪問で社長に接する機会も多く、「さまざまな業務を通して企業の活動を見ることができた」と振り返る。成長途上の企業活動の面白さを知ったのもこの経験を通してだった。

 しかしながら、菌への熱は冷めていなかった。新聞記事で読んだ福山黒酢の取り組みが目に留まったのだ。手作りで一つ一つの壺(つぼ)に水と玄米と麹菌を仕込み、壺の中で一貫して発酵、熟成させる工程に「酢はいいな」と発酵への純粋な思いがふつふつこみ上げたという。

研究開発室では麹菌の培養や新商品の開発が行われる。室長の竹下さんの活動拠点となっている

研究開発室では麹菌の培養や新商品の開発が行われる。室長の竹下さんの活動拠点となっている

 すぐに同社の門をたたき、09年に入社した。生コンクリート会社からの異業種参入で設立された同社は、老舗醸造所を引退していた黒酢杜氏(とうじ)の赤池力さん(82)を登用し、伝統の工程を忠実に再現していた。「黒酢は大量生産できない。江戸時代から培われた職人の技術に、バイオテクノロジーを結び付けることができれば、他社がまねできない、より付加価値の高い商品を生み出せる」と自身の経験と技術を全力で投じた。

 10年4月に「食酢及びその製造方法」で特許申請した同社のトップブランド「桷志田(かくいだ) 泉」については、成分や機能性の分析、特許申請に携わった。泉は従来の黒酢の発酵に大豆を加えて独自の製法で2段階発酵させることで、うま味や機能性成分となるアミノ酸量を同社の黒酢の1.6倍としている。同社のブランド価値を押し上げた商品だ。

 そして、中心となって開発したのが約2年を費やして昨年1月に発売した「紅糀(べにこうじ)黒酢」。台湾などで漢方薬として使われている紅麹の成分であるモナコリンKにコレステロール値を下げる効果があることに注目し、研究に着手した商品だ。今年3月には筑波大との共同研究で、マウスのがん細胞の増殖を抑える抗腫瘍効果があると突き止めたことで、「新たな付加価値商品として、市場性に期待が高まっている」。

 黒酢を通した農業の6次産業化や地域雇用の創出など、自社の果たす役割は大きいと自認している。同社の壺畑では、信楽焼の黒い1個の壺の中で約50リットルの黒酢が発酵、熟成し、出荷を待っている。「壺の中の乳酸菌がアミノ酸をつくっている」。ふたをとって発酵具合を確かめる目には麹菌への愛があふれている。

ここが聞きたい

 -紅糀黒酢の具体的な機能性は。

 実験では、水、酢酸、自社商品の泉、紅糀黒酢をがん細胞のあるマウスに経口投与した。これまでの研究で黒酢ががん細胞の増殖抑制効果があることが分かっていたが、今回の研究では、黒酢より高い効果が紅糀黒酢にあることが判明した。健康への付加価値を商品に表示できる「機能性表示食品」の基準を大幅に上回る機能が見つかっており、売り方を工夫する必要があるレベルになっている。

 -新たな商品開発は。

 野菜を中心とした地元の食材と黒酢を組み合わせた商品開発を軸にしている。黒酢で野菜を漬け込んだピクルスを間もなく発売する予定。飲むだけでは消費量に限界がある。消費者に食べ方を提案することで、消費を拡大していきたい。

プロフィル

 たけした・よしたか クラフトビール「桷志田ホワイトエール」「桷志田レッドエール」の醸造責任者も兼務。醸造免許の申請からすべて手掛けた。女性客の多い物販・レストラン施設「黒酢本舗『桷志田』」で手持ちぶさたにしていた男性向けにと、麹つながりで醸造を始めた。1974(昭和49)年8月16日生まれの42歳。

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