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2018年5月22日(火)
キーパーソン

池上鉄工所(延岡市)専務 松田拓也さん

2017/07/10
経営再建するも危機感 父・松田清社長を支え、ITを活用した収益基盤、競争力の強化などに努め、業績のV字回復を果たした。これが認められ、同社は経済産業省の「攻めのIT経営中小企業百選」に本年度選ばれた。

経営再建するも危機感


「攻めのIT経営中小企業百選」の盾を手にする池上鉄工所の松田拓也専務

「攻めのIT経営中小企業百選」の盾を手にする池上鉄工所の松田拓也専務

 父・松田清社長を支え、ITを活用した収益基盤、競争力の強化などに努め、業績のV字回復を果たした。これが認められ、同社は経済産業省の「攻めのIT経営中小企業百選」に本年度選ばれた。この百選は本年度までの3年間で全国100社に到達し、本県では2社目の選定となった。

 延岡西高(現・延岡星雲高)から玉川大工学部に進み、情報通信工学科で学んだ。卒業後、ベンチャーIT企業で、現在は東証ジャスダック上場のアイル(東京)に入社。中堅・中小企業向けに特化した業務システムやハード、ネットワークなどを提供する同社で営業を担当した。

 新人時代は東京本社で、一日100~150件の飛び込み営業を繰り返す毎日。「話を聞いてもらう工夫や、追い返されても事務所内をつぶさに観察して何か一つでも情報を取って帰るというスキルが身についた。度胸もついたし、メンタルも相当鍛えられた。今に生きていることが多い」と振り返る。

 目立った成果を上げたり、不振から営業チームを外されたりと浮き沈みの大きな3年間を送り、大阪本社へ異動。人材派遣会社向けの提案営業だったが、リクルートやエン・ジャパンといった大手を相手に苦戦を強いられた。

 「いったんリセットしたい。他の仕事もしてみたい」と思い始めたころ、池上鉄工所に入社していた小学校の同級生から「戻って来ないのか」という電話をもらった。長男ではなかっただけに、初めて「そういう選択肢もある」と考えるようになり、「不自由なく生き、大学まで行かせてもらえたのは、この会社のおかげ。戻るなら社長の元気なうちがいい」と決断。2008年12月に28歳で帰郷し、入社した。

 同社は1946(昭和21)年創業の老舗企業で、受注生産を中心に設計から機械加工、製缶溶接、工事配管、メンテナンスなどを一貫して手掛ける。入社して半年ほどは現場を回り、その後に総務経理グループに配属された。リーマン・ショックの直後だっただけに、受注が減り、現場が遊んでいる状況が多々見られ、社員からも芳しくない情報が耳に入るようになった。入社から2年ほどが過ぎた2011年1月、思い切って経営分析に着手。すると、「借り入れをしなければ最悪の場合、数年でつぶれる」ことが分かった。

今春、延岡工業高を卒業した新入社員に声を掛ける松田専務。新卒採用に力を入れている

今春、延岡工業高を卒業した新入社員に声を掛ける松田専務。新卒採用に力を入れている

 自分が何のためにこの会社に入ったのか。その答えが目の前にあると感じ、「何が何でも立て直す」と覚悟を決めた。『この人は』と見込んだ会計事務所のスタッフと二人三脚でさまざまな分析とシミュレーションを重ね、再建策の模索に汗を流した。

 しかし、どんなに切り詰めても、どんなにシミュレーションしても人員体制を維持するのは不可能だった。数字をオープンにし、何度も労働組合と話し合い、早期希望退職や雇用形態の見直しなどによって社員数を3分の2に削減。何とか会社存続の道を開いた。「人を切るということは、その社員と家族の人生を狂わせるかもしれないということ。いろんな犠牲を払い、多くを学んだ経営合理化だった」と沈痛な面持ちで語る。

 人員削減だけでなく、これまでの受注案件を1件ずつ洗い直すなどし、売上高を落としても利益率を高めることで経営体質を強化。競争力の強化やソリューション営業の確立などにもITを活用して取り組んだ。一方で、危機意識と情報共有の社内ツールとしてもITを活用。そして、13年9月期決算で黒字転換を果たし、業績は堅調に推移している。

 ただ、「やり遂げた」とは思っていない。大きな犠牲を払ったことに加え、「現状維持は衰退の始まり。達成感どころか、危機感しかない。実は当社が人員を削減したのは3回目。20~30年の間隔でそうした危機が訪れている。その時に備え、策を講じておく必要がある」と考えるからだ。利益率や生産性のさらなる向上を見据えた「その策」は既に頭の中にある。
(小川祐司)

ここが聞きたい

 -自社が抱える最大の経営課題とは。

 人材の確保と育成。できるところは機械化していくが、うちの仕事は受注生産の「一品モノ」がほとんど。ロボットでは代替できない部分、人の手でないとできない部分がある。人に頼る仕事である以上、人の教育は不可欠であり、技術やノウハウ、考え方を次の世代につないでいきたい。同時に、作業効率、生産性を高める構想も形にしたい。

 -「攻めのIT百選」に選ばれた際、「私たちの業種もITやIoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)を抜きには語れない」と話していた。それらを活用し、やりたいことは。

 ITなどを活用した「見える化」に取り組む企業は多いが、私は「魅せる化」をやりたい。16年に「大物製缶溶接ドットコム」など自社の得意分野ごとに三つのソリューションサイトを開設したのもそうだが、もっと強みをアピールしたい。中小企業は自社の「魅せ方」が下手。求人の際、相手を魅了し「格好(かっこ)いい」と思わせないと人は集まらない。今以上にITやIoTを活用し、自社の格好いい魅せ方を追求したい。

プロフィル

 まつだ・たくや 玉川大工学部卒。2003年、IT企業のアイル(東京)に入社し、東京本社と大阪本社で営業に従事。退職し、08年に池上鉄工所へ入社。12年1月から現職。人材の確保と育成を自社の課題に挙げるが、「自分の後継者も課題」と笑う独身。延岡市出身。1980(昭和55)年4月生まれの37歳。

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