みやビズ

2019年6月16日(日)
キーパーソン

かねこ行政書士事務所代表 金子聡さん

2016/06/13
今秋の発売を目指す遺言書キットの見本をめくる金子代表。「残された家族への思いやりを形にしたい」と意気込む

残された家族への愛を形に

産学官民連携部会「MANGO」の総会で遺言書キットの紹介をする金子代表

産学官民連携部会「MANGO」の総会で遺言書キットの紹介をする金子代表

 身内の相続トラブルをきっかけに一念発起して行政書士になり、遺言など相続に関する相談に応じてきた。根底にあるのは「死後に家族がもめるのは悲しい。そんな思いをする人を減らす手伝いがしたい」という思い。現在は法的な効力を持ち、残される家族への思いも伝えられる「遺言書キット」の販売に向け奔走している。

 就職氷河期だった2001年、就職が決まらないまま大学を卒業。友人と旅に出た沖縄県のリゾートホテルで、レストランのボーイの職を得た。しかし、同年9月に発生した世界同時多発テロで状況は一変。テロの次なる標的への懸念が広がり、県全域で客足が落ち込んだ。勤めていたホテルも修学旅行などの大口のキャンセルが相次ぎ、人員整理の対象となったためアルバイトを辞め、飲食店などで6年ほど働いた。たまたまサーフィンで訪れた本県を気に入り、08年に移住。宮崎観光ホテルにあるレストランで働き始めた。

 仕事も順調だった11年、地元・山口では伯母とその娘たちの間で、伯父の遺産分配についてもめていた。実家に帰って話を聞くと、伯母は「こんな年になって争って暮らしたくないよ」とぽつり。年老いた伯母の悲しそうな表情に、遺言の重要性を痛感した。行政書士を目指すことを上司に打ち明けると、勤務シフトを融通してくれた。試験まで2カ月となった時点でレストランを辞め、12年に資格を取得。同年に事務所を設け、相続などの相談を受け付けている。

今秋の発売を目指す遺言書キットの見本をめくる金子代表。「残された家族への思いやりを形にしたい」と意気込む

今秋の発売を目指す遺言書キットの見本をめくる金子代表。「残された家族への思いやりを形にしたい」と意気込む

 作成手順の煩雑さや保有財産の過小評価などが、遺言書が普及しない主な理由。一方で相続人からは「生前にきちんと整理して、決めておいてほしかった」との声をよく聞く。「残された家族を思いやる気持ちと、自身のこれからの人生をどう豊かに生きるかを考えるきっかけが詰まった一冊にしたい」との思いが、遺言書キット作成の原動力だった。

 キットは2部構成を想定。一つは緩和ケアの希望やかかりつけ医といった「もしもの時に備える情報」を記す。もう一方は、遺言書や財産の内容に加え、写真や手紙などの形で残された家族への思いを伝えられるものにする。自分で書いたり、親にプレゼントしたりする需要の見込める40代、50代を主なターゲットに定めている。

 5月末に開かれた県中小企業家同友会の会員企業らで組織する産学官民連携部会「MANGO」の総会で、販売方法などについて意見を求めた。「事業承継の観点から経営者に勧めてはどうか」「生前に整理していたほうがいいと思えるようなきっかけについて分析を」などの多くのアドバイスが寄せられ、「迷っていた点が少しずつ解消できている」と心強く感じている。金融機関や出版社との打ち合わせも進めており、内容を磨いて今秋の販売を目指す。
 
 キットでは法的な効力はないが、相続人に自分の本当の気持ちを伝えることができるメッセージ「付言事項」の色合いを強くしている。そうするのは「残された家族が『自分に気を配ってくれたんだな』と温かい気持ちで故人と向き合ってほしいから」。宮崎発の遺言書キットが全国に羽ばたく日を夢見ている。
(西村公美)

ここが聞きたい

 -遺言書作成の現状は。

 英国では「紳士のたしなみ」とされ、75歳以上では8割を超える人が作成しているという。一方、日本は公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言でみると、普及率は9%程度。自分で完結する自筆証書遺言を利用する人もいるが、まだまだ低水準。8割を超える人が生命保険に加入する今、生命保険と同じ「備え」として遺言を普及させたい。

 -同友会会員企業の有志で組織する民間団体「生前整理@みやざき」にも関わっている。

 自身の財産や持ち物などをきちんと把握して整理し、残りの人生を見直す「生前整理」の必要性を感じていた3人のたわいない会話からスタートした。リフォームや宝飾品の買い取り、清掃など幅広い業種が集まったことで、効果的なサポートができるようにした。賛同企業の募集や、依頼を受け付け後の情報共有などクリアすべき課題は多いが、残された家族に負担をかけなくて済むシステムとして求められるはずだ。

プロフィル

 かねこ・さとし 1977(昭和52)年5月、山口県宇部市生まれ。高知大人文学部卒。ミヤチク勤務などを経て、2012年に行政書士資格を取得、同事務所を設立。今月中に約1年付き合ってきた女性と入籍予定で、「同じ方向を向いて歩んでいける家族になりたい」とはにかむ。

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