みやビズ

2019年5月22日(水)
キーパーソン

西澤養蜂場社長 西澤康全さん

2014/05/15

ミツバチと共に春を追う

 蜜源を求めて、日本の春を追いかけるのが仕事だ。養蜂の世界に入って半世紀以上。将来の展望や従業員への思いを語る顔には気力があふれ、歩き回る姿は壮健そのもの。先々代社長だった父親に「機関車」と呼ばれていた、というのもうなずける。国内最大規模の養蜂場を率いる71歳は、間もなく始まる(※)約半年間の採蜜行を前に「日本人には日本の花で採れた蜜が一番。誰にも負けない蜜を採ってくるよ」と意気込んだ。

巣枠に群がるミツバチ。この時期はミカンの花の蜜を集めていた

巣枠に群がるミツバチ。この時期はミカンの花の蜜を集めていた

 同社は1909(明治42)年創業。本県、沖縄、青森、北海道に採蜜場を持つ。レンゲやミカン、リンゴ、アカシア、アザミ、ソバなど、開花する花の時期に合わせてミツバチと一緒に各地を移動する「転地養蜂」で、一斗缶(18リットル)にして年間約2000本分の蜂蜜を採取する。

 採蜜はミツバチと人間の共同作業。蜜を集めるためにミツバチの習性を利用するものだが、収量を安定させ、品質を確保するには人の手が欠かせない。ミツバチの健康管理や天候の見極めはもちろん、優秀な女王蜂を育てることが多くの蜂を抱えることにつながる。いずれの判断にも長年の経験が必要で、「若い者に任せておくと、収量が2割は落ちる」。トップ自らが今月9日に青森へ出発。10月まで青森と北海道を行き来しながら採蜜を行う。

 若い頃は「蜂屋さん」と呼ばれることに抵抗があった。「遊牧民みたいなイメージ。貧しいと思われているのでは」。同級生が大学に進学し、大企業に就職した姿を見るたびに「負けるもんか」とがむしゃらに働いた。蜂蜜に加え、1960(昭和35)年からはローヤルゼリーの生産を開始。85(同60)年に蜂蜜を使ったアイスクリームや菓子の発売を始めるなど、近年盛んに提唱される「6次産業化」にも積極的に取り組んだ。社長就任後は通信販売に向けた商品開発に着手。現在は年商3.5億円のうち約6割を通販部門が占める。

3月に新装オープンした蜂兵衛館の前で、自社製の蜂蜜を手にする西澤社長

3月に新装オープンした蜂兵衛館の前で、自社製の蜂蜜を手にする西澤社長

 養蜂業もほかの1次産業と同じように、高齢化による後継者不足や環境破壊によるミツバチ減少などの問題を抱えており、蜜源を豊富に持っている社も少なくなった。そんな中で青森と北海道の採蜜場に社宅や倉庫、作業センターなどを整備。社員が働きやすい環境を整えた。さらに創業105年目のことし3月8日(ミツバチの日)には、本社がある高岡町浦之名の直販施設「蜂兵衛館」を新装オープン。看板に北海道産のナラ、壁板に青森産のヒバなど全国から集めた木材を使用してスケール感をアップ。自社製品をずらりと並べた明るい店内は、次の100年へ向け、社員の士気を高める狙いがある。

 昨年12月からことし3月にかけて、綾町内の17ヘクタールにカワズザクラとソメイヨシノの苗木を500本植えた。蜜源を長期に確保する取り組みの一環だが、自然環境を守っていこうというメッセージも込めている。アカシアを既に植えてあり、将来は公園化して多くの人に花見や蜜しぼり体験をしてもらうつもりだ。

 「ミツバチたちは死ぬまで働き、働き疲れて死んでいく。そんな姿を見て、私も年をとっても働き続けたい」と生涯現役を誓う。「和」と笑顔を尊ぶ社風に沿い、社員が退職後も元気で過ごせるように老人ホームを建設する夢もあるという。
(※取材は青森へ出発する前に行った)


ここが聞きたい

 -養蜂で一番気を使うことは。

 意外に思うかもしれないが、巣箱の輸送。宮崎から青森へ移動するときは、大型など5台のトラックに搭載して運ぶ。ミツバチは寒さに強いが熱に弱く、暑いと巣ごと全滅してしまう。車が止まるとクーラーも止まってしまうので、運転を交代しながら30時間以上ノンストップで走り続ける。風通しがいいように、巣箱の積み方に気を使う。交通事故など渋滞情報にも神経をとがらせる。

 -少子高齢化で国内市場は縮小傾向だ。

 蜂蜜が体にいいということはよく知られている事実。健康になりたい、美しくなりたいと思う人は多く、消費はそんなに減らないと思う。実際、通販部門の実績は伸びてきている。これまで以上に品質の向上に努める。蜂兵衛館のリニューアルのように消費者へ蜂蜜の良さを発信することも大切。また、安定供給へ向け山林を購入して植樹を行い、蜜源を増やしている。

わたしのオススメ

 リーダーは夢や希望を持ち、常に前向きに生きることが大切。そのために、若いころは、さまざまな目標を記した紙を自宅の部屋に飾り、日々それらの達成を意識してきた。旧友から「やっちゃんは、これと決めたことを全て実現させるね」と言われたときは、うれしかった。今も自宅のトイレに「人生は金より心の民(友達)をつくれ」と記した紙をはっている。気分転換は、やっぱりハチを見ること。労働や仲間の大切さ、勤勉さなど人生に必要な道徳を全てミツバチに教えてもらった気がする。(談)

プロフィル

 にしざわ・やすまさ 宮崎市高岡町出身。西澤養蜂場の2代目社長、宇一氏(故人)の8人きょうだいの四男に生まれる。高校中退後に家業へ本格的に加わる。3代目で14歳上の長男、通之(みちゆき)氏の後を継ぎ、1993年から4代目社長。県養蜂農業協同組合長。1943(昭和18)年1月生まれの71歳。

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