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2018年7月21日(土)
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山部宏昭さん(生命保険協会 宮崎県協会事務局長)

2016/05/18
【わたしの一冊】山部宏昭さんお勧めは、佐藤さとる著「だれも知らない小さな国」(講談社文庫)

佐藤さとる著「だれも知らない小さな国」(講談社文庫)

自分らしさ呼び覚ます

やまべ・ひろあき 1962年、熊本市に生まれ、阿蘇で育つ。九州大法学部卒。86年、日本生命保険入社。ビルやニュータウンの開発といった不動産事業にも携わり、90〜92年に建設省(現国土交通省)へ出向。鹿児島支社次長、水戸支社次長を経て今年4月から現職。

やまべ・ひろあき 1962年、熊本市に生まれ、阿蘇で育つ。九州大法学部卒。86年、日本生命保険入社。ビルやニュータウンの開発といった不動産事業にも携わり、90〜92年に建設省(現国土交通省)へ出向。鹿児島支社次長、水戸支社次長を経て今年4月から現職。

だれも知らない小さな国

著 者:佐藤さとる 
出版社:講談社青い鳥文庫

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 子どもの頃から本好きで、この本は1974年2月、小学6年生の時に購入した。以来、表紙がすり切れるくらい何度も読み返し、54歳となった今も手元に置く。冒険譚(たん)ではなく、ファンタジー作品。人はそれぞれに小さな頃から自分だけの世界、大切なものを心の中に秘めている。ただ、それは大人になると忘れがちになる。この本は、その大切なもの、自分らしさを呼び覚ましてくれ、時には立ち止まって自分を見つめ直すきっかけにもなっている。

 物語の舞台は戦争前後の日本。美しい自然の中で育った少年が一度はその地を離れるが、成人して戻り、少年期に偶然目にした「コロボックル」と呼ばれる小人たちを守ることになる。かつて「自分のものにしたい」と考えていた小さな山に小人たちの国をつくることを決意したのだが、ここに道路の建設計画が浮上。人間と小人とで知恵を絞り、小人の国づくりを実現させるというストーリーだ。

 ストーリーを引き立てるのが、美しく、豊かな自然の描き方。極めて巧みであり、日本人の誰もが懐かしさを覚える原風景ではないだろうか。自然に加え、小人の服や動きなどの描写も精緻で、その情景が容易にイメージでき、あっという間に物語に引き込まれる。村上勉さんの挿絵も秀逸で大好きだ。

 少年期に小人を偶然目にした、誰にも言えない秘密を大切に育み、自己実現していく主人公の「ぼく」。この「ぼく」は私たち皆に重なるのではないだろうか。子どもの頃から大事にしているものを持ち続ける大切さをこの本は教えてくれる。その大事なものとは、人の気持ちであり、心でもある。目に見えないから、周囲もこれを尊重しなければならない。「知らない世界、うかがい知れない他者の思いを大事にしよう」というメッセージが込められている。

 この教訓は私自身、他者と接する上で生きたし、子育てにおいても大きな影響を受けた。子どもたちが持つ内面的な世界は、大人から見ると、ささいな世界に見えるが、そうした小さな心が抱えているものを大切に育んできた。そして今、社会人3年目の娘と大学4年生の息子は、自らの心に素直に生き、少しずつ自己実現を図ろうとしている。

 この本は子どもたちに読んでほしい。自分の世界や思いを大切にすれば、成長する上で大事な自信にきっとつながる。自己肯定感が強いほど、他者からの否定に耐える力が強まる。

 社会に出てからも、何度もこの本を読み返した。仕事や人間関係など大人になると面倒なことが増える。自分自身を見失いそうになったとき、心で望んでいない方向に向かっているとき、本を手に取っている気がする。

 この本を読むと、ふるさと阿蘇の風景が鮮やかに脳裏によみがえる。しかし、実際の風景は熊本地震によって大きく傷つけられた。一日も早く、あの美しい自然と人々の営みが戻ることを祈っている。

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