みやビズ

2019年9月16日(月)
東京発 経済人

日揮グループ代表 重久吉弘さん

2011/11/25

日本人の特性を海外プラント開発で発揮


 日揮グループは、国内外の子会社41社、関連会社32社で構成されるエンジニアリング専業企業だ。特に、石油や天然ガスなどエネルギー・化学プラントの設計・建設工事では、世界トップクラスの実績を誇る。ちょうど50年前に日揮(当時は日本揮発油)に入社し、先頭に立って海外事業を切り開いてきたのが、宮崎市出身の重久吉弘さん。各国政財界の首脳クラスに厚いパイプを持ち、現在も世界を飛び回って新規ビジネスの開拓に心血を注ぐ。半世紀に及ぶ企業人生を振り返ってもらい、日本企業の強みや国内エネルギー産業の展望、宮崎活性化のヒントを聞いた。
(聞き手・東京支社報道部長 見山輝朗)


■世界のLNG生産量3分の1

 -日揮グループの2011年度業績予想は売上高5300億円、経常利益640億円で、過去最高益を更新する見込みだ。日揮の事業を分かりやすく説明してほしい。

日揮の横浜本社が入居するクイーンズタワーの代表室に立つ重久さん。現在の横浜市を象徴するみなとみらい地区を見下ろす室内で、日揮の世界戦略に思いを巡らせる=横浜市

日揮の横浜本社が入居するクイーンズタワーの代表室に立つ重久さん。現在の横浜市を象徴するみなとみらい地区を見下ろす室内で、日揮の世界戦略に思いを巡らせる=横浜市

 重久 石油やガス、石油化学などの大きなプラントの基本設計から資材・機器調達、建設工事、試運転まで一貫した責任体制で手掛けている。プラントを構成する機器、部材は数万点に及び、さらに石油や天然ガスを高温・高圧下で反応させて処理するという高度な技術が必要となる。こんなことをやる企業は世界でも数えるほどしかない。特に、LNG(液化天然ガス)プラントの設計・建設工事では、世界中で生産されるLNGの生産量の約3分の1が、日揮が設計・建設したプラントから生産されている。これまでに世界各国の国家的プロジェクトに参画。現在建設中の主な海外プロジェクトは、アルジェリアとアブダビのガス処理プラント、サウジアラビアの石油化学プラントと原油生産プラント、カタールのGTL(天然ガスから液体燃料を作る技術)プラント、オーストラリアのLNGプラントなどがある。総事業費は数千億円から数兆円規模になるものもある。このほか、5年ほど前から資源開発や水・発電などのインフラ事業などの投資事業にも参入し、米国で石油・ガス開発事業、オーストラリアの上下水道運営事業、アブダビとサウジアラビアの造水・発電事業、スペインの太陽熱発電事業などに投資している。

 -以前から海外事業は活発だったのか。

 重久 私が入社したときの会社は海外の実績がほとんどなかった。私が英語が話せるということで海外の営業活動を任された。返還前の沖縄や香港、韓国などのプラントを皮切りに実績を積み重ねた。細かく数えたことはないが、40カ国は足を運んだだろうか。文字通りのパイオニアだった。われわれのビジネスは技術力やプロジェクトマネジメント能力に加えて、経験の深さや知見が生きる。客先には政府関係が多く、世界各国に築いた人脈も重要になる。現在の日揮グループは売上高の70%から80%を海外のプロジェクトが占め、これまでの取引先は70カ国に及ぶ。

■日本人の特性を発揮

 -海外でそれだけの成果を挙げた要因は。

リビアとアルジェリアの国境付近に立つ重久さん(左から2人目)。日揮は両国で天然ガス生産プラントのプロジェクトを手掛けた(2005年、重久さん提供)

リビアとアルジェリアの国境付近に立つ重久さん(左から2人目)。日揮は両国で天然ガス生産プラントのプロジェクトを手掛けた(2005年、重久さん提供)

 重久 自動車や家電メーカーはものづくりで日本の存在を知らしめたが、われわれはプラントビジネスの世界で、日本人の持つ特性である緻密さ、チームワーク、責任感を発揮し、プロジェクトを完遂してきたことで、顧客の信頼を勝ち得てきたと考えている。

 -具体的に言えば、どんなことに心を砕いてきたのか。

 重久 それは、相手の身になって考えることだ。相手国の発展につながるようなビジネスをいつも考えている。例えば、アラブの国では富裕層がクオリティの高い住宅を求めている。今、日揮では日本の住宅メーカーと協力して、日本の技術を使った耐熱効果の高い住宅を提案している。ゆくゆくは低所得者層向けの住宅も提案していきたいと思っている。さらに、現地に工場を造れば、若者たちの雇用にもつながる。そもそも、われわれが建設するプラントは、完成すればそこで何百人という人が働くことになる。新興国の産業化にもつながるビジネスをやっているのが日揮だ。また、海外で難しい石油プラントを手掛けたことがあった。海外の同業社は現地の建設工事業者をうまく使いこなせず失敗したが、われわれ日揮だけが計画通りに完成させた。他国の同業者は、現地の建設会社が何かミスをしたら、ペナルティーを科したり、辞めさせたりする。われわれはそんなことはしない。たとえ、それが業者であっても相手の言うことをしっかりと聞き、窮状を理解し、一緒になって解決策を考える。「だったら一生懸命やろう」と彼らも協力するようになる。現在、GTLプラントを建設中のカタールでは、1日に約6万5000人が働いており、国籍を数えると60カ国以上になる。それを束ねるのが数百人の日本人だ。私も2度現場に行ったが、見事にマネージしていると実感した。

 -中国は経済発展が目覚ましいが、ビジネス相手として付き合うには、どのようなことが重要か。

「われわれの仕事は例えば、何もない砂漠の中に、その国の発展につながる事業を興すようなものだ」と語る重久さん(リビアとアルジェリアの国境付近に立つ写真を示しながら)=横浜市

「われわれの仕事は例えば、何もない砂漠の中に、その国の発展につながる事業を興すようなものだ」と語る重久さん(リビアとアルジェリアの国境付近に立つ写真を示しながら)=横浜市

 重久 決して楽なビジネスではないが、自分から中国を好きにならないと駄目だ。日揮には現在、中国の清華大学や日本の大学を出たエンジニアなど約20人の中国人社員がいて、もっと増やしたいと思っている。先日も彼らを招いてアイデアを聞いた。地方の政府と仕事をすべきだというのが主な意見だった。地方のトップは中央から来ていて、自分たちの市を発展させたいと必死になっている。われわれと組むことで市の環境整備につながる新しいビジネスを提案するなど、いろんなアイデアがある。日揮は中国の海水淡水化事業にも投資している。まずは、信頼できるパートナーをつくることが重要だ。

■固有技術で海外進出を

 -円高が止まらないが、どのような対策を講じているか。

 重久 海外売上高が多いので円高はマイナスになる。しかし、われわれの場合、機器メーカーや建設工事業者に対し、ドルで支払うものについては、客先からドルで支払いを受ける、同様にユーロ支払い分に対してはユーロで、など為替差損を発生させないように、顧客とマルチカレンシー(複数の通貨)建ての契約を結ぶように努めている。一方、インドネシア、サウジアラビアなどに現地のエンジニアリング会社を持っており、中小型のプロジェクトはそこが直接請け負うことで、日揮グループ全体の競争力を付けている。

 -東日本大震災に伴う原発事故で国内電力が不足している。

2010年11月に横浜市で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のレセプションでオバマ米大統領と握手を交わす重久さん(重久さん提供)

2010年11月に横浜市で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のレセプションでオバマ米大統領と握手を交わす重久さん(重久さん提供)

 重久 日本の電力構成比(2007年)は天然ガス28%、原子力26%、石炭25%、石油13%、水力8%、太陽光や風力で1%。再生エネルギー特別措置法が成立したが、再生可能エネルギーで原子力発電の不足をすぐに補うことはとてもできない。原子力がノーなら、エネルギー資源のない日本は石炭やLNGを海外からもっとたくさん買うしかない。ただ、コストが高く、二酸化炭素(CO2)排出の問題もある。やはり、原子力発電で一定量の電力を賄うことは必要だ。世界には地震を恐れている国も津波を恐れている国もたくさんある。日本は今回の経験を糧に、安全性をもっと高めて、原子力発電を求めている新興国にもプロモートすべきだ。当社も協力を惜しまない。

 -宮崎には、どのようなビジネスチャンスがあると思うか。

 重久 最近、地方の企業が海外に活路を求める動きが出てきている。日本海側の地域にある企業が地の利を生かして、アジアや対岸のロシアのウラジオストクに進出しようとしている。宮崎にも、農業関連の技術など、もっと売れるものがあるのではないか。先日ウクライナを訪問して首相に会った。ウクライナには鶏の農場がたくさんあり、われわれが提案したプラントの中で、鶏糞(けいふん)発電にとても関心を示していた。宮崎では既に取り組んでいると聞く。海外に目を向ければ、新しいビジネスチャンスは生まれてくると思う。
(横浜市の日揮横浜本社で)


プロフィル


 しげひさ・よしひろ 宮崎市出身。慶応大文学部英文科を卒業し、1961(昭和36)年に日本揮発油(現日揮)入社。国際事業本部営業部長などを歴任し、84(同59)年に取締役就任。常務、専務、代表取締役副社長を経て、96年から社長、2002年から会長兼CEO(最高経営責任者)、09年から日揮グループ代表。現在も世界各国を飛び回って首脳クラスと会ったり、建設現場に足を運ぶなど多忙な日々を送る。趣味は古代ローマ史、落語鑑賞、ゴルフなど。関東在住の宮崎大宮高卒業生でつくる東京弦月会の会長。77歳。

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