みやビズ

2019年6月25日(火)
東京発 経済人

サッポロビール社長 寺坂史明さん

2011/07/01

一日一生で完全燃焼


 サッポログループは創業140周年に当たる2016年に連結売上高6000億円、連結営業利益400億円を目指している。その中核企業・サッポロビールの社長に就任して2年目を迎えた寺坂史明氏。東日本大震災で製造工場などに大きな被害を受けながら、被災地支援にも力を注ぐ。経営の現状や展望、ふるさと宮崎への思いを聞いた。
(聞き手・東京支社報道部長 見山輝朗)

■被災2工場が復旧

「被災地支援のためにも、皆さんが大手を振ってビールを楽しめて、元気になれる環境を整えたい」と語る寺坂社長

「被災地支援のためにも、皆さんが大手を振ってビールを楽しめて、元気になれる環境を整えたい」と語る寺坂社長

 -東日本大震災では、仙台工場(名取市)と千葉工場(船橋市)で建物、設備や物流施設が損壊する被害を受けた。

 寺坂 私どもの大きな5工場のうち2工場が被災した。品種も絞らざるを得なくなり、計画していた新商品の発売時期をずらしたり、ラガービール赤星のみお取り扱いいただいているお店に赤星を出荷できなかったりして、結果的に流通、消費者にご迷惑をお掛けした。売り上げに与える影響は非常に大きかったが、震災から2カ月以内に2工場とも復旧し、フル稼働体制が整った。15%節電に対応しても、昨年の最盛期と比べて1割以上の(増産に対応できる)供給力は確保している。

 -震災に関連して、サッポログループはどのような支援を行っているか。

 寺坂 サッポロホールディングスによる義援金5000万円や飲料水50万本などの支援のほか、仙台工場では(併設している)ビール園が被災者の方々に炊き出しをずっと続けたりした。今後も7月に北海道、9月に(東京の)恵比寿で行われるビール祭りの生ビールの売り上げ全額を寄付したり、8月4日のビアホールの日に全国のライオンチェーン店で消費される生ビール1杯につき100円を寄付するなど、ビール屋らしい支援をしていく。一般のお客さまにとっても元気の需要喚起になるのではないか。被災したエリア以外の人たちも常に震災を忘れないように、今後もずっと支援を続けていくことが大切だ。

■バカルディ社と業務提携

 -世界3位の蒸留酒会社バカルディの日本法人と5月19日に業務提携を結んだ。世界販売量首位のラム「バカルディ」や、ウオツカ、ウイスキーなど29銘柄、90商品を10月から国内で独占販売する。

 寺坂 バカルディはラム酒をはじめ、たくさんの世界ナンバーワンブランドを持っている。これまで基本的に洋酒事業がなかった私どもには、非常に意味があり、総合酒類メーカーとして将来の成長に必要な商品がそろうことになる。特に、マザーブランドといわれるウイスキーやコニャック、スピリッツ本体も重要だが、そこから派生するRTD(レディー・トゥー・ドリンク)商品、つまり日本で言う缶チューハイや私どものネクターサワーなどの世界が広がっていく。飲食店などの業務用のみならず、ご家庭で飲まれる幅広い商品展開が可能になる。残念ながらビール類市場が年々縮小する中、RTDはビール類を補完する成長分野で、お客さまの多様化、多層化に対応できる。

■ノンアルコールビール好調

発売から3カ月足らずで、年間売り上げ目標の半数以上の約37万箱を突破した「プレミアムアルコールフリー」

発売から3カ月足らずで、年間売り上げ目標の半数以上の約37万箱を突破した「プレミアムアルコールフリー」

 -ビール市場が縮小する原因の一つとして若者のビール離れが指摘されている。若者にビールを飲んでもらうために、どのような仕掛けをしていくか。

 寺坂 最近の若い人には苦みに対する抵抗感があり、苦みのおいしさが分かるまでには時間がかかるようだ。その導入部分として、ビールを軸に果汁などを加えたビアカクテルなどの飲み口のいい物を提案していく。また、ノンアルコールビールも次のビール世代を育てることにつながる。そのほかにも、サッポロホールディングスは(名古屋市の飲料メーカー)ポッカコーポレーションと経営統合するが、私どもの持っていないポッカ社の技術との掛け合わせなど、夢は広がる。

 -そのノンアルコールビールとして3月16日に発売した「プレミアムアルコールフリー」が好調だ。年内販売目標を、当初の60万箱から倍増の120万箱に上方修正した。

 寺坂 ネーミング、パッケージング、味の良さが三位一体となり、お客さまに評価されたのだと思う。今までのノンアルコールビールは飲料水の代替として入っていた。ビール好きのためのノンアルコールビールとは何かと考えたとき、一番分かりやすいのは刺し身に合う味にすることだと開発担当者には指示した。麦芽100%の麦汁とバイエルン産アロマホップを75%以上使用することで、ビールらしい味わいのノンアルコールビールが見事にできた。他社との明確な差別化で、一度買われた方の9割がリピーターになっている。震災で十分な販売促進ができなかったので、もう一度、認知度を上げる取り組みをしているところだ。

■黒ラベルが九州で浸透中

宮崎神宮近くで育ち、「いまだにずっと、子どもの頃に感じた森のにおい、玉砂利を踏む足の感覚や音を覚えている。宮崎は私にとっては若い頃に戻り、心が改まる場所」と話す寺坂社長

宮崎神宮近くで育ち、「いまだにずっと、子どもの頃に感じた森のにおい、玉砂利を踏む足の感覚や音を覚えている。宮崎は私にとっては若い頃に戻り、心が改まる場所」と話す寺坂社長

 -九州地区で売れている商品は何か。主力の「サッポロ生ビール黒ラベル」はこれまであまり浸透していなかった。

 寺坂 九州で今年一番調子がいいのが実は黒ラベルだ。缶は5月単月では前年比で3割増。われわれの基幹商品であり、ありがたい。震災で品薄になったことで黒ラベルを飲む機会が増え、あらためてお客さまにおいしさに気付いていただけたのではないか。(第三のビールの)「麦とホップ」も順調。これから贈答セットの時期になり、もともと九州ではよく売れている「ヱビスビール」が伸びそうだ。

 -これらの商品作りに際して、特に原料には気を遣っている。

 寺坂 最高を目指す競争の中、カナダやオーストラリアなど世界各地で協働契約栽培をしている。私どものフィールドマンが畑や刈り取りなどすべての状態をチェックして、眼鏡にかなった物しか使っていない。

 -社長として心掛けていることは。

 寺坂 社長は会社の公人であり、言い方は適切でないかもしれないが、個人としての自分は往生したという覚悟がないとできない。今これをやっておかないと次はないということを常に考えている。悔いの残らないように、一日一生だと思って完全燃焼したい。

■宮崎復興を支援

第三のビール「麦とホップ」の宮崎応援パッケージ缶。県内で数量限定販売し、1缶当たり1円を宮崎県へ寄付する.

第三のビール「麦とホップ」の宮崎応援パッケージ缶。県内で数量限定販売し、1缶当たり1円を宮崎県へ寄付する

 -震災の陰に隠れているが、宮崎も厳しい環境に置かれている。サッポロビールは昨年に引き続き、3月から「がんばろう宮崎!!キャンペーン」を展開し、口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ、新燃岳噴火の被害からの復興支援活動に取り組んでいる。「麦とホップ」の宮崎応援缶も6月から限定発売中だ。

 寺坂 私が社長だからということでもないが、宮崎とサッポロビールの関係を途切れなくずっと続けることに意味がある。口蹄疫以降、なぜ宮崎だけ災害が続くのかという思いがずっとあったが、人間万事塞翁(さいおう)が馬で、それに耐えた後は必ず評価される。

 -宮崎が飛躍するためのビジネスチャンスは何だと思うか。

 寺坂 宮崎は基本的に食の偉大なる供給基地だ。そこにもう一つ大きなポイントとして天孫降臨といわれる歴史や、あまり手のついていない豊かな自然がある。文明ではなく文化を味わいたければそこに行くしかない。東京からの距離も大切だと思う。「身近ではない」というところ。私も宮崎に帰り、空気と水と食べ物と歴史を感じると、自分が生まれ変わるような感じになれる。その素晴らしさをどうやって全国に伝えていくかが重要だ。宮崎らしさを失わないことが望ましいと思う。(東京都渋谷区のサッポロビール本社で)

プロフィル


 てらさか・ふみあき 宮崎市出身。宮崎大宮高、慶大を卒業後、1972(昭和47)年、サッポロビール入社。同社が2003年に純粋持ち株会社に移行後、04年取締役常務執行役員、05年専務執行役員を歴任し、10年3月から現職。持ち株会社サッポロホールディングス常務を兼ねる。仏像彫刻が趣味で昨年は阿弥陀如来像を完成させ、今年は不動明王像を制作中。「気力が充実していなければできない」。62歳。

アクセスランキング

ピックアップ