みやビズ

2018年10月21日(日)
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海外展開(5)

2012/10/30

インタビュー

ジェトロ福岡貿易情報センター・荒畑稔所長に聞く

人材育成や物流コスト課題

 海外市場への可能性を模索し始めている中小企業。成長著しいとされるアジアをターゲットに輸出や現地進出を目指す動きは九州でも活発化している。その背景などを知ろうと中小企業の海外進出を支援する日本貿易振興機構(ジェトロ)福岡貿易情報センター(福岡市)を訪ね、荒畑稔所長にインタビューした。荒畑所長は九州企業の海外展開の動向として「中国に加え、東南アジアへの展開も活発化している」と説明。海外展開への課題として、海外展開を担う人材育成や物流コスト削減などを挙げた。(聞き手 経済部次長・高森千絵)

飲食関係の出店相談増
 ―日本貿易振興機構(ジェトロ)の主な業務は。

ジェトロ福岡貿易情報センター・荒畑稔所長

 あらはた・みのる 1989年4月、日本貿易振興会(現日本貿易振興機構)入会。香港事務所次長、海外調査部中国北アジア課長などを経て、2009年1月から現職。中央大経済学部卒。47歳。

 荒畑 一つは海外の見本市に中小企業が出展する際の支援。特に有名な展示会には応募が多く、日本の中小企業が単独で申し込んでも出展する機会が得られないことがある。このためジェトロが「ジャパンブース」という形で一定のスペースを確保し、日本企業に出展してもらう。特に中小企業に対しては、通常の出展料をジェトロで半分ほど補助している。もう一つは海外からバイヤーを招き、国内で商談してもらう事業。直近では11月、熊本に食品バイヤーを10社ほど呼ぶことになっており、宮崎、鹿児島、福岡など九州の企業50社が参加する予定だ。

 このほかの業務として、海外展開は考えているが具体的にどの国に持っていっていいか分からないという企業の場合は、ジェトロがミッションを企画して企業を海外に案内する事業も行っている。実際に現地を訪れ商品が売れそうか、進出してもいいかなどを判断してもらう。ジェトロがアレンジするため現地政府も対応してくれ、政府の政策や方針を直接聞くこともできる。海外のことを考えたいという段階の場合はジェトロにアドバイザーがいるので、電話をいただくなり、事務所に来ていただくなり、無料で相談いただくこともできる。

 ―宮崎県内企業の海外進出の意欲はどうか。

 荒畑 中小企業よりも大手、例えばホンダロックや旭化成系列の何社かが進出していると聞いている。中小企業は、まだこれからではないか。製造業であれば現地に工場を造ってということもあるが、最初は輸出から始め、販売のための事務所を現地に造るという時に投資して現地法人に変えたりというのが一般的。

 ―業種別で海外への展開を積極的に取り組んでいる業種は。

 荒畑 問い合わせの件数で考えると、多いのは機械関係だが、最近の傾向としてはレストランなどの飲食関係が増えてきている。これまで国内で展開していた企業も、先を考えて海外に出店しようかという相談がある。

 ―九州内企業の輸出、進出先として人気が高いのは中国か。

 荒畑 問い合わせ件数では圧倒的に中国。ただ、2012年9月以降に尖閣諸島の問題があってからは、中国向けの投資に関する問い合わせ件数は減っている。

尖閣問題は様子見
 ―尖閣諸島の問題が九州の企業の活動にどの程度、影響を与えているだろう。

 荒畑 尖閣の関係だけでどれほどというのは一概には言えない。ただ「今まで中国で企業活動を行ってきたが、ベトナムも考えた方がいいか」など、問い合わせがぱらぱらと来ている。中国市場は大きいので、企業もすぐに完全に手を引くことはできずに様子を見ながらだと思う。

 ―九州の企業はどの程度、東南アジアへの展開を考えているか。

 荒畑 中国一辺倒ではなく、尖閣問題が起こる前からタイ、ベトナム、インドネシアなど東南アジアに関する問い合わせは増えてきている。ここに来て、将来的に伸びていく市場としてミャンマーやカンボジアなどへの関心も高まってきている。アメリカなども市場が大きいので目は向けているが、これからということであれば東南アジアではないか。インドに関しては2009年度、ジェトロが日本のアンテナショップを半年間開く事業があり、現地の人を日本に招くなどした上で日本から出店する企業を募集したところ、多くの応募があり関心も高かった。ただ、当時は物流関係で冷蔵、冷凍のルートが構築されておらず、常温で送れるものしかだめだという話だった。

 ―宮崎はシンガポールの見本市に出展する。

 荒畑 シンガポールには日本企業がかなり進出している。東南アジアの統括拠点を香港とシンガポールに置く企業は多いが、香港は中国に近いため、東南アジア全体を見るのはシンガポールがいいと聞く。インド方面まで統括している企業もあるようだ。日本食という観点からも香港、台湾、シンガポール辺りは食品の行き先として重要なので競争も激しい。各県こぞって物産展などを開催している。

留学生ら上手に活用を
 ―海外では価格競争にさらされる。

 荒畑 差別化できるものであれば価格競争に巻き込まれない。特色があって「ここの商品でなければ」という食品、部品であれば輸出しやすい。中国や、ほかの国でも製造できて味もそんなに変わらないとなると価格競争に巻き込まれる。そうなれば、いかに出荷時の価格や物流コストを引き下げるかが重要になる。九州経済連合会(九経連)や九州経済産業局が、九州のいろいろな商品をコンテナ1本にまとめたらどうか、と言っている。確かに、九州で集めて直接海外に送るようになればコストは下げられる。だが、ビジネスとしていろいろな所から物を集めて貿易の書類を作ってまとめるとなると、手が掛かりもうけは少ないし、リスクも覚悟しなければならない。そこがいつも課題になって話が進まない。 

 ―農産物は生鮮品であれば、牛肉のように付加価値のあるものでなければ輸出は難しいのでは。

福岡市中央区にある日本貿易振興機構(ジェトロ)福岡貿易情報センター。専門アドバイザーによる相談も受けられる

福岡市中央区にある日本貿易振興機構(ジェトロ)福岡貿易情報センター。専門アドバイザーによる相談も受けられる

 荒畑 香港向けに農産物を出しているのはどこも贈答用。一般的な野菜は価格競争になるので厳しいのは確か。円高だけでも厳しい。生鮮物は空輸だったら料金が海運の10倍ほど掛かる。だから価格競争には勝てない。農産物に関しては物流体制が整っているものの、生鮮品は傷みが早いため通関を早く通してくれる国でなければ市場は限られる。香港や台湾、シンガポールは通関が早いため各社が出している。ただ、新しい国はどこがというと、なかなか難しいというのも事実。


 ―農産物も、香港向けは九州でまとめて送るという構想を九経連などが提案している。

 荒畑 既存の物流ルートで空きがあれば、それを利用してはどうかと九経連などは考えている。ただ、ビジネスの世界であり行政がどこかの場所に誘導するのは難しい。

 ―中小企業が海外展開を考える際の課題は何か。

 荒畑 大きいのは人材。海外とビジネスをしようというとき、商談で英語や中国語が話せる人材が自社にいるかどうか。例えば、海外の見本市に出展して多くのバイヤーと名刺交換し、帰国後にバイヤーからメールが来た場合、それに対してやりとりができるかなど。ほかの課題としては現地の情報をどれだけ取れるのか、バイヤーの言っていることがどこまで本当かを判断できるかなど。そういうことに関してはジェトロを活用してもらえればと思う。

 ―海外展開に対応できる人材を確保する手だてはあるか。

 荒畑 九州には海外から約1万9000人の留学生が来ている。その留学生を活用して自社で対応できるようにしていくというのが一つの方法。九州の企業で今までに海外展開している企業は、留学生を上手に活用している。

 ―海外展開を考えた時に、今回の尖閣諸島問題なども含め、リスクとして考えておくべきことは。

 荒畑 カントリーリスクとしては病気や自然災害。2011年のタイ洪水など、そういう事態があるということを頭に入れておいた方がいい。ビジネスリスクでは、中国でよくあることだが、債権や売掛金が回収できない場合もある。このほか商標や特許などを現地で登録しておかないと、いざ売り出そうとしたら現地の合弁会社などに勝手にまねされていて、できなかったということがある。知的財産権に対するリスクには注意しておいた方がいい。
=終わり=
【メモ】 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ) 中小企業に対する輸出販路開拓支援や海外経済情報の調査・分析などの海外展開サポート、外国企業の誘致などが主な業務。海外55カ国に73事務所、国内では2本部(東京、大阪)と36貿易情報センター(事務所)がある。九州内の事務所は福岡県2カ所、大分、長崎、熊本、鹿児島各県に1カ所ずつで、本県は福岡事務所が担当している。海外経済、貿易情報などを提供するほか、専門アドバイザーによる無料相談も受けられる。ジェトロホームページアドレス=http://www.jetro.go.jp/indexj.html

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