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2020年2月25日(火)
紙面県内経済

決断 県内の事業承継事情 第3部 M&A(2)万代ホーム[下]

2014/06/04

M&Aにより経営者が変わった万代ホーム。突然の報告に社員の間には不安や動揺もあった

成長へ従業員前向き 経営意識徐々に浸透

 九州で酒類の業務用卸を展開する酒のキンコー(鹿児島市、濵田龍彦社長)が万代ホーム(都城市)を買収した昨年9月。住宅関連業界で「倒産寸前だった」などのうわさがささやかれた。前社長の前田隆治(60)は「M&A(合併・買収)はいまだに“身売り”のイメージも付きまとう。風評被害を打ち消すのに苦労した」と明かす。

 だが、「万代ホーム買収」で最も動揺したのは、売買契約を結ぶまで一切の情報を持たなかった従業員にほかならない。

 女性社員の一人は、初めて知らされた日の衝撃を、今も思い出す。「不安とショック。酒のキンコーとはどういう会社なのか。何が、どう変わっていくのか…」。その日、言葉を交わす社員は少なく、社内は静まりかえっていた。

 経営者が交代し、半年以上がたった。社長に濵田が就いた以外、体制に大きな変化はない。ただ、創業者である前田の強いリーダーシップの下、上意下達で動いてきた経営の在り方は、各部署に目標や経営意識を持たせて社員自らが考える方向へとかじを切った。

 「月日とともに不安は薄まっている」。女性社員はこう実感し、“酒のキンコー流”の経営の在り方も、「さらに成長するためには…」と前向きに捉えるようになってきた。

買収を即断

 「いい会社だと判断した」-。濵田はM&Aの情報を大手銀行から持ち掛けられると、ほぼ即断する形で買収に動いた。同社にとって住宅事業は未知の分野だが、企業買収は初めてではない。濵田は「新分野参入や事業の多角化には、有効な手段」と強調する。

 酒のキンコーは1989年、酒のディスカウントストアとして設立。以来、右肩上がりで成長し、グループ全体の売り上げ規模は約230億円に上る。その成長の原動力となったのが、M&Aだ。

 濵田が参入した当時、酒類販売の免許は人口や距離の規制があった。その規制に守られて競争もなく、1店舗だけでも十分に売り上げを出せた。が、規制緩和は進み、競争も激しくなる。将来を見越し、規制の中でも多店舗展開するには、「ほかの酒屋を買収するしかなかった」。

 さらに業務用卸に参入してからも、積極的に企業を買収した。業務用卸では小売店や飲食店が販売先となり、「人と人とのつながり」がものをいう。それだけに、「営業エリアや販路、人材を一気に獲得できるM&Aが有効になってくる」と指摘する。

異なる社風

 M&Aを繰り返し、事業を拡大させてきた濵田は「企業同士、社風が違うのは当然」と言い切り、万代ホームの社長就任後には、社員の意識改革に着手している。

 「前田前社長のようなリーダーシップ、カリスマ性はない」と自認し、社員には「リーダーシップに変わる組織力」を求める。各部署の管理職を集めた週1回の定例会議など、社員に目標や経営意識を持たせるための新たな取り組みも導入した。

 ただ、濵田には「進駐軍になってはならない」との意識もある。万代ホームが築いてきたノウハウを生かしながら、新たな風を入れていく-。社員にも「ビジネスパートナーとしてやっていこう」と呼び掛けた。

 厳しい経営環境の中、さらなる成長を実現できる手段として事業売却を選択した万代ホームと、買収で事業の多角化、拡大を図る酒のキンコー。思惑が一致するその構図は、M&Aが事業承継の一つとして注目を集める理由にもなっている。

 濵田は言う。「会社を譲ってもらったときよりも、会社を良くしていく。それが一番の責任だと思っている」(敬称略)

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