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2020年2月25日(火)
紙面県内経済

決断 県内の事業承継事情 第3部 M&A(1)万代ホーム[上]

2014/06/03

酒のキンコーの傘下となった万代ホーム。前田前社長は「将来のためにもいい選択をした」と語る

資本力で大手に対抗 事業拡大見据え売却

 「会社を売却した」-。万代ホーム(都城市)は昨年9月、九州で酒類の業務用卸を展開する酒のキンコー(鹿児島市)と株式の売買契約を結んだ。万代ホーム前社長・前田隆治(60)は契約を結んだ日の午後、グループの全従業員約100人を集め、水面下で進めてきた売却の経緯を初めて明かした。

 突然の知らせに、涙を流す従業員の姿もあった。前田は「これからどうなるのかという不安や動揺があったのだろう」と推し量るが、「将来を考えれば、従業員のためにも正しい選択をした」と確信する。

 前田は創業当初から、60歳を機に万代ホームの経営を次の世代に託したいと考えていた。グループ会社の万代不動産には、専務で住宅事業の経験もある長男・泰宏(37)がいる。頭にあったのは泰宏への承継。当初から売却の選択肢があったわけではない。ただ、「ここ10年で経営環境が大きく変わってしまった」。M&A(合併・買収)に踏み切った理由をこう説明する。
県外に進出
 1983(昭和58)年に万代不動産を創業した前田は、2年後に注文住宅を手掛ける万代ホームを設立。1カ月ごとの施主への訪問、無料点検といったアフターサービスの徹底など顧客第一を掲げ、都城を中心に受注を伸ばした。一時は同市だけで年間約100棟を建設。県内でトップクラスのシェアを誇った。

 しかし、状況は一変する。大手住宅メーカーの進出、県内の新興メーカーの台頭で、競争は激しさを増した。都城だけでは年間100棟を維持できなくなり、5年ほど前に鹿児島県に進出。その後も、県内外で営業拠点を増やすことで、100棟を堅持してきた。

 「最終的に都城は30棟にまで減った」。周囲を見渡すと、廃業に追い込まれた中小の工務店も少なくない。厳しい経営環境にさらされながらも、拡大戦略によって増収増益を続けてきたが、「資本の大きな企業に勝ち続けるのは簡単ではない。生き残るには、資本力で対抗するしかない」との思いが強まった。

 酒のキンコーはグループ全体で、万代ホームの約10倍の売上規模を誇る。不動産事業も持つため住宅との相乗効果が期待でき、営業拠点も同じ九州。従業員の将来や今後の事業展開を見通せば、前田にはこれ以上ない売却先に映った。

家族に相談

 「会社を売却するのはどうだろうか」。家族に話したのは、売買契約締結の半年ほど前。その選択を告げられた泰宏は、「継ぐのが当然と考えていたが、正直、ほっとした部分もあった」と漏らす。

 泰宏は大学卒業後、万代ホームに入社。以降、長らく軸足を置くことになった不動産事業を「得意分野」と表現する。一方の住宅事業も一通りの仕事ができるほどには携わってきた。だからこそ「住宅の大変さは十分に分かっている」。

 協力企業や職人との信頼関係の構築、社員教育、現場管理、アフターメンテナンスなどの顧客対応…。「社長だからできることがある。それを自分ができるのか」。そんな不安を持ち続けてきたのも事実。「自分の代で倒産、廃業だけはあってはならない」。2代目となる責任感が「大きなプレッシャーになっていた」。

 ただ、住宅事業は好調。周囲から「なぜ売ったのか」と問われることもある。「事業の拡大、成長を一番に考えれば、受け継ぐのは親子である必要はない」。泰宏も父親と同様の思いを抱いている。(敬称略)
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 事業承継の実態を探る連載企画「決断」第3部のテーマは「M&A」。事業譲渡に動く企業経営者の思いや狙いなどを探る。

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