みやビズ

2018年5月22日(火)
寄稿コラム / 森の風の記憶(矢房孝広)

見えなくなる「村」

2013/10/09
 18。沖縄を省く九州管内の“村”と名のつく自治体の数です。全国的にも、村は184しかなくなり、20年前の3分の1になりました。もともとは、人口規模や中心部への人口集中率などの、市や町となる要件を満たさない地域の自治体=コミュニティーを「村」と呼んだようですが、平成の大合併という行財政の効率化を趣旨とした国策により、周辺の都市部に吸収され、村というコミュニティーは見えにくくなりました。

諸塚村・七ツ山地区の集落の遠景

諸塚村・七ツ山地区の集落の遠景

 林野率50%以上の地域が中山間地域で、国土の65%を占めますが、「村」の多くがそのエリアにあります。住民は、全人口のわずか14%弱で、人口密度の逆数、つまり人口一人あたりの国土面積を計算すると、都市部の13倍になります。農家人口も41%を占めることを加味すると、山林と農地の多くが中山間地域の人々に支えられているといっても過言ではありません。かつて人口密度が高い方が素晴らしいと教えられてきましたが、今や過密都市と化した世界の大都市の多くが、過密が便利さと裏腹のコミュニティーの崩壊を招き、公害や犯罪などに悩んでいます。

 雇用や高等教育、経済活動、購買行動など、様々な局面で過疎の地域に住み続けることは難しくなっています。しかし、行政の形態がどうなろうと、守るべき国土は厳然とあり、そこには人の営みが必要です。村で生きていこうという人をつくらない限り、国土は守れないのです。

「小さな経済」への進化


諸塚村・小原井地区であった道路の草刈り作業

諸塚村・小原井地区であった道路の草刈り作業

 ここにきて「アベノミクス」なる財政出動を前提とした景気対策で、久しぶりに経済界はミニバブルに沸いています。しかし、国と地方自治体の借金総額は、1000兆円を超える赤信号状態ですし、自治体の財政破綻も現実化しています。選挙のたびに、「景気対策」や「成長戦略」が掲げられますが、多くの場合、その果実の分配は地方へは届きません。さらに都市部でさえ、資本主義経済の大量生産大量消費を前提とした東京型の収益構造のシナリオは崩れつつあり、時代に即した新しいビジネスモデルが求められています。

 その突破口の第1は、「多品種少量生産」モデルです。大量に同じものを供給するには大量の消費者が必要ですが、人口減少と嗜好の多様化、資源無駄を省く環境問題など様々な局面を考えると、一人一人のニーズに対して、確実に応えられることは有効です。

 これまで地方では、マス需要のモデルでは規模が小さく採算に乗らないため、大手が撤退する例が多かったのですが、顔の見える信頼関係の構築が容易でリピーター化しやすいことなど、多品種少量生産のビジネスモデルが充分になり立ちます。規模の点で売上は小さいですが、大規模な設備投資が不要なことや地域毎に小モデルが成立するので競合がいないことなどで、経費が低く収益は意外と上がります。大企業に頼らずとも「ムラノミクス」とでも呼べるような、「小さな経済」が成り立つ地方の時代が始まっています。

独自に進化する「村」へ


諸塚村のモザイク林相

諸塚村のモザイク林相

 1,000m級の急峻な山々が連なる九州山地の中心に位置し、針広混交林がモザイク模様を織りなす諸塚村は、その豊かな森を生かしながら、約1,800人の人々が元気に暮らす森深き山村です。大企業も24時間ショップもなく、そんな山村の一住民がビジネスを語るのもおこがましいですが、資本主義社会が行き詰まり、自治体破綻が現実味を増すなかで、経済成長の尺度をモノの充足だけで測るのではなく、経済=人の営みをもっと人間に近いところに置き、昔ながらの自然の営みにあわせ、人々が助け合うことが出来ないか。

 平成のガラパゴス自治体「ムラ」として、独自の進化を遂げ、心豊かで快適な暮らしを実現しようとする諸塚村のこと。山村の現場での、近未来経済の1形態と予想する「小さな経済」のレポートをお届けするみやビズ版「森の風の記憶」。半年の間、ご笑覧いただけると幸いです。

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