みやビズ

2017年11月22日(水)
記者コラム / 巣山貴行

ぶどうカンパチがもたらした自信

2017/09/15
 2年前の大みそかに祖父母の家で食べた養殖ブリの刺し身が、養殖魚への偏見を変えた。延岡市北浦町の丸正水産と中千代水産が生産する「へべすブリ」だった。さっぱりとして、ほどよい脂に「これはうまい」と衝撃を受けたことを舌が鮮明に覚えている。
餌に五ケ瀬ワイナリーのブドウを搾った後の皮を使った五ケ瀬ぶどうカンパチ。抱えるのは丸正水産の堀田洋社長

餌に五ケ瀬ワイナリーのブドウを搾った後の皮を使った五ケ瀬ぶどうカンパチ。抱えるのは丸正水産の堀田洋社長

 2年前の大みそかに祖父母の家で食べた養殖ブリの刺し身が、養殖魚への偏見を変えた。延岡市北浦町の丸正水産と中千代水産が生産する「へべすブリ」だった。さっぱりとして、ほどよい脂に「これはうまい」と衝撃を受けたことを舌が鮮明に覚えている。

 釣りが趣味で、食卓の魚は自前か釣り友が届けてくれる天然魚ばかりで、魚に恵まれた環境にある。そのため養殖魚の粘つく脂っこさやいつまでも口に残る特有の臭さが苦手で、めったに食べることはなかった。へべすブリはそんなイメージをいい意味で裏切ってくれた。

 そして、この2社が昨年12月に第2弾となる「五ケ瀬ぶどうカンパチ桜舞(AUBE)」を開発した。餌にワイン用に果汁を搾った後のブドウの皮を混ぜるという発想の斬新さと、食味の改善が想定以上だったこともあり、市場では大きな話題となっている。養殖カンパチの国内最大産地である鹿児島県の養殖会社からも注目されるほどだ。

 刺し身にすると、夏に入って脂の乗った天然の大型カンパチのような食味。そして、邪魔にならない甘みと、こりこりとしたカンパチ特有の身の締まりがあり、これもへべすブリ同様にうまかった。1匹ずつ手作業で神経締めして、血抜きすることで身の腐敗を遅らせ、うま味成分が生成されるピークをコントロールしている効果も大きい。

 ブドウを加える前のカンパチはノーブランドの「県産養殖カンパチ」として、ほかの養殖会社のカンパチと一緒に店頭に並んでいたという。もちろん、神経締めや血抜きはなし。中千代水産の中田真稔社長は「いけすから出荷するだけで、どこで売られているかも、誰が食べているかも興味がなかった」と正直に明かしてくれた。しかし、ぶどうカンパチを出荷するようになってからは消費者からの反応が届き、直接の注文も入るようになり、一気にやりがいが増したという。いまは「手間をかけたほどいい魚ができる」と自信たっぷりだ。

 そして、何より印象的だったのが、「これで息子に継がせることができる」という言葉だった。大幅に売り上げが伸びたわけではないが、ブランド魚を開発し、出荷しているという自信ややりがいが事業を継続させる力になっているのだ。それを行政や漁協から与えられたのではなく、自分たちで手にしたことも大きい。

 北浦に92あった養殖会社はいまや15にまで減った。ほとんどがこの2社のような家族経営の零細企業だ。店頭や飲食店でぶどうカンパチを見掛けることがあったら、そんなストーリーが詰まっていることを想像して、買ってほしい。
(巣山貴行)

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