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「トリクルダウン理論」はまだ有効か? 長池國裕さん(みやぎん経済研究所常務理事)

2014/12/19
みやぎん経済研究所常務理事 長池國裕さん「『トリクルダウン理論』はまだ有効か?」

イメージした効果享受できず


みやぎん経済研究所常務理事 長池國裕さん

ながいけ・くにひろ 早稲田大卒。1978(昭和53)年、宮崎銀行入行。証券国際部、経営企画部主任調査役、東京支店長などを経て2011年7月1日から現職。「他律的に就職し、自立的に仕事に取り組む」。宮崎市出身。

 本稿が掲載されるころには、「アベノミクス選挙」と言われた衆院選も終わり、約2年間にわたる安倍政権の政策運営の中間評価が下されているだろう。当然のことながら、現段階での選挙結果も投票所に足を運んだ有権者のアベノミクス評価も予測することは極めて難しい。そこで、今回はアベノミクスという安倍政権の経済政策パッケージのバックボーンとなっている「トリクルダウン理論」について論点整理し、あらためて課題を認識してみたい。(「トリクルダウン理論」については一部ウィキペディアから引用している)

 「トリクルダウン理論(Trickle Down Theory)」という言葉自体は、アベノミクスを中心とした経済政策の中ではポピュラーではなかったが、アベノミクスの基本的なストーリーとして位置付けられ、現在も存在している。「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透(トリクルダウン)する」という経済理論・思想である。「トリクルダウン」は「徐々に流れ落ちる」という意味で、「大企業や富裕層の支援政策を行うことが経済活動を活性化させることになり、富が低所得層に向かって徐々に流れ落ち、国民全体の利益となる」という仮説である。つまり大都市・大企業・富裕層への富は、次第に地方・中小企業・低所得者層へとこぼれていく(=波及していく)という思想である。問題は実体経済において「果たしてそうなのか」ということである。

 確かに、トリクルダウン理論は「全体の利益が増える方向の変化であれば、例えその変化によって一部の人が損を被るとしても、そのような変化は望ましい」とか、「全体の利益が増える変化が続くのであれば、最終的にはほぼ全ての人にとって変化を拒絶した場合よりも良い状況を達成できている可能性が高い」とか、楽観主義的な考え方も成り立たなくもない。

 一方、批判的な主張としては「投資の活性化により、経済全体のパイが拡大すれば、低所得層に対する配分も改善する」はずである。しかしながら、現実にはパイの拡大が見られても、それは“配分の改善”を伴わず、国民全体の利益としては実現されない。つまりは、「富が低所得層に向かって徐々に流れ落ち、国民全体の利益となる」はずであったものが、一部の富裕層の所得の上積みをもって「経済は回復した」ということにすり替えられているにすぎない」というものである。「トリクルダウン効果により、経済成長の利益は自動的に社会の隅々まで行き渡るという前提は、経済理論・歴史経験に反している」と指摘する経済学者もいる。近代・現代国家においては経済構造が複雑化しており、「富は必ず上から下へ流れる」といった単純な概念は当てはまらないのではないか。

 アベノミクスの中での「トリクルダウン理論」の展開をみると、いわゆる「第1の矢」、「第2の矢」、「第3の矢」という政策パッケージの流れにおいて、トリクルダウン効果を期待していたことは間違いないと思われる。確かに、アベノミクス第1期では、異次元の金融緩和により低金利の維持とあふれるマネーを実現させ、過度に行き過ぎた円高を是正し“時間の猶予”を得た。しかし、政権中枢やリフレ派の経済学者がイメージしたトリクルダウン効果は享受できなかった。一言で言えば産業構造の転換で“経済理論における単純化モデル”がほとんど機能しなくなってしまっている、ということではないか。

 もともと、アベノミクスは経済学的にも理論的に賛否が拮抗(きっこう)する状態からスタートした。トリクルダウン仮説の慎重な分析は果たして十分だったであろうか。2017年4月には消費税再増税を実施するという「退路を断った」今後の政策運営にはさらなる精緻な仮説の検証が求められる。

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